第四幕、御三家の幕引
 それどころか松隆くんのほうから申し出られましたけどね! 鹿島くん松隆くんのこと見抜いてるの気持ち悪いな。やっぱりストーカーかな。


「……まー、一応、私、松隆くんのことフッてるんだよね。一応」

「ああ、いい気味だな。君がやった仕事の中で一番と言ってもいいかもしれない」

「陰湿過ぎて引く」

「ご自由にどうぞ」


 運ばれてきたコーヒーを鹿島くんは呑気に飲む。私がどれだけ非難したって、鹿島くんにとってはどこ吹く風だ。


「まー、だからって明貴人くんと出かけて服買いに行ってるのもどうなんだって話だけどさ」

「別にいいだろ、彼氏だ」

「松隆くんは嫌がらせのために私が明貴人くんと付き合ってるって分かってるし、桐椰くんだって私は何か交換条件があって明貴人くんと付き合ってるんだって思ってるよ」

「そうだろうな」

「それなのに明貴人くんとデートしてみせるなんて、私、ピエロもいいとこじゃん。桐椰くんも拗ねちゃうしさー」

「あれは桐椰が子供なだけだろ」

「……私、桐椰くんのこと、好きなんだよねぇ」


 ぽつん、と呟いたとき、初めて鹿島くんの興味が私に向いた気がした。そうだ、この人は、私に興味がないんだ。それなのに、私に似合う服やブーツを選ぶ鹿島くんには違和感がある。その違和感はつい最近抱いたものに似ている気がするけど──……何なのか、思い出せない。だから一旦(いったん)保留だ。


「それは俺じゃなくて桐椰に言えばいいんじゃないか? 尻尾振って喜ぶだろうよ」

「……好きだけどさぁ、なんか、付き合いたいとかいうのとは違うんだよねぇ」


 鹿島くんまで桐椰くんのことを犬扱いしているのはスルーだ。桐椰くんは誰にでも犬扱いされてしまう運命だ。


「桐椰くんのことは好きだけど、桐椰くんは私に構ってくれるけど……桐椰くんといて私は嬉しいけど、私は別に、桐椰くんのことを幸せにはしないよなーって思うんだよね」

「なんだそれ、君のエゴか」


 予想に反して──というほどではないけれど、予想外の台詞で、鹿島くんは嗤った。その台詞から想像する鹿島くんの恋愛観というか、愛情の手向け方は、想像しているものとは違った。


「……だって私、好きな人には幸せになってほしいもん」

「君といることが、桐椰にとっての幸せにはならないと?」

「うん」

< 202 / 463 >

この作品をシェア

pagetop