第四幕、御三家の幕引
「桐椰はお花畑だから好きな子と一緒にいるだけで幸せかもしれない、とは?」

「んー、私、そういうのは嫌なんだよね。桐椰くんを幸せにできる女の子がいてくれたらいいなぁ」


 私もコーヒーカップを傾けながら、視界の隅っこの桐椰くんを見る。あーあ、またストーカー中に喜んでケーキ頬張ってる。本当、どうしようもないなあ、桐椰くんは。


「あーあ、なんでこんな話、明貴人くんにしないといけないんだろ。哀しいよね、明貴人くん以外にこの話できない私」

「自分で袋小路に飛び込んでおきながら、笑える嘆きだな」

「追い詰めたのは明貴人くんだよ。明貴人くんはさあ、私に興味ないよね」

「ああ、ないけど」


 それがどうかした? そう聞いてくるくせに、やっぱり違和感がある。


「でも、私に優しくすることあるよね」

「いつも優しいけどな」

「なんだかなー。本当に、鹿島くんが読めないんだよなあ」


 鹿島くんなんて、嫌いだ。透冶くんに自殺を(ほの)めかし、元生徒会役員を使って桐椰くんを傷つけて、鳥澤くんを傷つけて、その鳥澤くんを利用して月影くんもふーちゃんも傷つけて、これから松隆くんも傷つけようと画策している。私は何もされてないけど──キスはなんかもうどうでもよくなってきたからいい──御三家を散々弄ぶ鹿島くんが、嫌いだ。

 じゃあ、今、私の目の前に座る鹿島くんは、何だ?

「生憎、実はいい人でしたなんてオチはつかないよ」

「でしょーね。断りなくキスしてくる人きらーいなんて言わないけど、断りなくキスしてくる人はいい人じゃないもん」

「安いな、君のキス」

「憐れまないで。これでも傷ついた頃もあったんだから」

「その点に関してはそうかもしれないな」


 加害者側から謎の同情を向けられた今の私の心情をどう表すべきか。複雑極まりない。


「……私、いつになったら明貴人くんと別れられるかなあ」

「好きにすればいいんじゃないか」

「そうだよ、別れるタイミングは私の自由なんだけどね、それじゃ意味がないんだよ! 明貴人くんが御三家に手出せるようになるんだから!」


 あれ、そもそも何で私が鹿島くんと付き合ってるだけで鹿島くんは御三家に手を出さなくなるんだ? この条件を担保するものは鹿島くんの良心以外にない。こんな良心の欠片もない人の良心を信用していいのだろうか。

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