第四幕、御三家の幕引
「困ったなー。今までは第六西にいればよかったけど……」

「家に帰ればいいじゃないか」

「話聞いてた? どういう顔して会えばいいのか分からないんだって。……修学旅行でもうっかり会っちゃうし。彼方がいたからよかったけど」

「ああ、桐椰の兄。女好きのアホに見えて頭のいいアホ」

「うん、その彼方。言い得て妙」


 透冶くんが亡くなったときに彼方が殴り込みに来たって聞いたもんな。だからってそこまで見抜いてるのもすごいけど。


「修学旅行中にうーっかり遭遇しちゃって、私はなんて言えばいいのかも分かんないのに、向こうは兄ですって模範解答するしさー。彼方が彼氏って言ってくれたから? だからって妹がいつもお世話になってますって何? いつから妹になったってゆーの、私が……」


 コーヒーで(くだ)を巻くなんて聞いたことがないけど、そんな感じになってしまった。本当に、話し相手が鹿島くんしかいないなんて皮肉だ。

 兄のことなら、彼方にだって話せる。月影くんにだって話せる。でも私に優しいから、彼方は優しい答えをくれるし、月影くんは反応に困ってくれる。鼻で笑い、正論をくれるのは鹿島くんだけだ。


「当たり前だろ、兄として正しい回答じゃないか。桐椰の兄が事情を知っていたから話は別だが、何も知らない男の前で元カレだの友人だの答えてどうする。そんなのただの自己満足以上はない見栄だ」

「見栄って何」

「目の前の男より優位に立ちたいっていう見栄。ま、君の元カレ──兄というべきかな、兄が君をまだ恋愛感情的な意味で好きだという前提だけどね。いずれにせよ、それをせずに迷わず兄だと答え、兄として挨拶をした君の兄は正しい。何も間違ってない」


 正論の金槌(かなづち)で頭をガンガン殴られているようだ。自分でいうのもなんだけど、それなりに複雑な家庭の私によくそこまでズケズケ言えるな。


「……間違ってないけど、そういう正しい答えができるってことは私のことどうでもいいのかなとか、そういう風にもやもやするのが複雑な乙女心なの!」

「は? 相手のことがどうでもいいのに兄としての挨拶なんてしてやるもんか」


 心底馬鹿にした、睨むような目つきに(すく)みあがった。自分本位な発想を見透かされたと、そう感じてしまった。


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