第四幕、御三家の幕引
「どうでもよければそもそも気付かない。気付いても声なんてかけやしない。声をかけても、どうでもいい相手と一緒にいるヤツとの関係なんて聞くわけないだろ。君の兄は、君のことが大事だから君に気付いたし、君に声をかけて、兄としての挨拶までしたんだろ。呆れるどころか面倒でうざいな、君の発想」


 面倒でうざい、というワードがなぜかグサリと胸に突き刺さった。なんだろう、面倒くさいもうざいも言われたことがあるけれど、ここまではっきりと具体的なエピソードについて言われると現実味があるというか……。いや、鹿島くんが言うってことは冗談でなく本気で私って面倒でうざいんだなというか……。


「君は、自分が無価値で死にたいとか思ってるわけだが」

「すごくはっきり言うね」

「で、それは君の勝手だが」

「もう少し何か言うことないの、期待してないけど」

「それを他人に押し付けるのはやめろ、迷惑だ」

「別に押し付けてなんか……」

「自分が無価値だと思うから、君の兄の配慮を分からないんだろ。君の兄からすればいい迷惑だ、わざわざ兄貴面をしてあげたっていうのに、二か月も経った後に陰でぐちぐちと喚いて」

「…………」


 そろそろ正論の金槌で撲殺されそうだ。多量出血以前に殴打時のショック死とかになってしまう。

 はーあ、と鹿島くんは呆れに呆れた深い溜息を吐いた。


「少しは他人の愛情を理解する姿勢になったらどうなんだ。君がそんなんじゃ、周りだって相手にしたくないだろうよ」


 だって注がれたことない愛情なんてどうやって理解すればいいか分からないじゃん──と返そうとして、いつかの蝶乃さんと同じ発想だということに気付いた。


「……明貴人くんって、家で要らない子なの?」

「今は有能だから使える子だな」

「……親からの愛情なんて知らないって?」

「さあ、どうなんだろうな。それより、正論に殴られて打ちひしがれてるだけで、話を聞いてもまだ、君は自分の兄から逃げ回るのか?」


 正論の金槌に更に殴られた。もうやめてください、私は瀕死状態です、なんて言っても許してくれないだろう。せせら笑いながらコーヒーカップを傾ける有様、悪役にぴったりだ。


「なんなら挨拶してやろうか、彼氏ですって」

「私また彼氏変わるの? めちゃくちゃ移り気じゃん」

「身から出た(さび)だろ」

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