第四幕、御三家の幕引
「……もうやだ」


 そうだよね、彼方だって言ってたもんね、私のことをどう思っていようが、ただの兄の顔をするのが正しいんだって。……あれで、分からないといけないことだったのにな。

 なんだか脱力して笑えてきた。はーあー、と頬杖をついた。


「……好きだったんだけどなぁー」

「兄が?」

「うん」

「最初は兄だと知らなかったから?」

「本当に何でも知ってるよね、気持ち悪い。そーだよ、私もお母さん死んで、それなりに途方に暮れてたしね。弁護士とかいう人が色々説明してくれたけど、よくわからなかったし。そんなところで色々相談に乗ってくれたり話聞いてくれたらさー、好きになるじゃん」

「刷り込みの雛か?」

「いやなるでしょ。タイミングは大事だよ。弱ってるところに付け込めっていうじゃん」

「付けこむ側にはな」

「そうなんだよねー、タイミングがいいと思ったら、そりゃそうだよね、お父さんが心配して、息子を私に会いに行かせたのが最初だから。お父さんも白々しいよ、お母さんの友達のふりして、でも自分が会いにいくのは気まずいのかなんだか知らないけど、息子を代わりに寄越すんだもんねー」

「つまり、君の母親が死んだ後、君の父親が息子に様子を見に行かせたと。弱ってるところに世話してもらって、まんまと好きになった後、君の父親が実は本当の父親だから養子に引き取る予定なんだなんて言い出して、彼氏と半分血が繋がってると分かったわけだ」

「まとめてくださってありがとうございまーす。はー……あー……」


 もう溜息も上手に出てこない。シナリオでも用意されてたみたいに上手くできた転落恋愛だ。でも確かに、刷り込みの雛のようにほいほい兄を好きになったのは私に非があるかもしれない。鹿島くんと話しているとそういうことを思う。


「どうしようかなー、来週困ったなー」

「挨拶してやるって言ってるだろ」

「それで私に何の得が?」

「君の兄は君に未練がないか、君に未練があるとしてもそれを隠して堂々と兄として振舞うべきと思いそう振舞っている賢明な人だろ。そこによくできた彼氏が現れれば安心するさ。未練があるとしてもそれを刺激することにもならないだろう」

「いや、だからそれで私に何の得が」

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