第四幕、御三家の幕引
「君が未練を抱いていると、兄は思わなくなる。今ほど極端な距離を保つ必要がなくなるだろう。君の居心地の悪さがひとつ解消されるわけだ」

「……それで鹿島くんに何の得が」

「君に貸しがもうひとつ」


 鹿島くんへの貸しを返済するのが怖くなるだけじゃん、それ。


「……いいよ、別に、もうあの人のこと引き摺ってるわけじゃないし」

「本当に?」

「……いや、本当はちょっと引き摺ってるとこもあったけど、うん。別に、もういいかなって……」


 あの頃が幸せだったから戻りたかっただけなのかも、なんて。


「だーって、私、桐椰くんのことが好きなんだもーん」

「彼氏の前で堂々と浮気宣言するな」

「明貴人くんが私のこと好きになったら考えてあげなくもないよ」

「なぜ君が上からなのか(はなは)だ疑問だし、永遠に考える余地を与えられなさそうだな」

「あ、今の喋り方、ちょっとツッキーに似てる。ツッキー最近あんまり会わないなー、元気かなー」

「松隆の見舞いを一緒にしなかったのか?」

「あ、した。なんか髪型変わってた。ツッキーって限界まで伸ばしてバッサリ切るタイプなんだよね、だから一気に前髪短くなっててびっくり」

「会ってるじゃないか」

「前はもっと毎日会ってたから! 第六西に溜まってたから! 最近受験勉強始めたとか言って構ってもらえなくて悲しい!」

「駄々っ子か君は。自分に構ってくれる人が好きなんだな」

「えっ」


 一瞬戸惑った後、今度はハリセンで横っ面を叩かれたような気持ちになった。構ってくれる人が好き……。


「……そうなのかも……」

「何を納得してるんだ。刷り込みの雛か」

「保護者タイプが好みなのかもー。あの人も──兄もそういうタイプだし」

「月影も松隆も保護者タイプじゃないからな」

「そうだねー、いざとなったら面倒見はいいんだけど、保護者じゃないよねー。……それでも、あの人と桐椰くんは全然違うけどね」


 優しいのは同じだけど、きっと桐椰くんのほうがずっとお人好し。兄のほうがどこか理性的。顔も雰囲気も喋り方も、全然似てない。きっと、二人を比べる人がいたら、「好みのタイプ変わった?」なんて言うだろう。

 だから、桐椰くんを好きなのは、兄を重ねているからではない。


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