第四幕、御三家の幕引
「で、この話のオチはどこだ。これから延々桐椰の惚気話でもするつもりか」

「するって言ったら帰る?」

「イヤホンを取り出す」

「何、家に帰りたくないの?」

「暇つぶしだって言ってるだろ」

「私で暇つぶしをする明貴人くんが不可解過ぎて気持ち悪い」

「桐椰の話をするならもう少し面白い話にしてくれないか? 弱味とか」

「甘いものに目がないからケーキ取ったらネット落ちてくる罠とか作ればひっかかるよ」

「惚気か?」

「バレンタインあげたら喜んでくれそうだなー」

「激しくどうでもいい。渡すつもりか?」

「んー、渡すなら御三家みんなに渡さないと。私、三人が好きだからさ」


 桐椰くんが好きだというのと、桐椰くんと付き合いたいというのは必ずしもイコールではない。

 ただ、チョコレートに関しては、松隆くんは高級なチョコに慣れてそうだから困るなあ。三人で分けてね、と第六西の冷蔵庫に入れとくのが一番いいかな。松隆くんも欲しくないなら食べないだろうし。


「あ、じゃあ御三家のぶんのチョコレート買いに行きたい。どうせ一回家帰らないといけないし」

「彼氏の前で堂々と他の男への貢ぎ物を買うな」

「だって明貴人くん暇なんでしょ? お金出してくれたら明貴人くんへのチョコも買ってあげるよ」

「金のかかる女だな」

「私の貴重な土曜日を買うんだからそれくらいはね」

「何を馬鹿な。二束三文で叩き売っても買ってもらえないだろ」


 鹿島くんの意図は不明だ。でも確かに、いい気晴らしにはなっている。一体食事で何の話をされるのか、分からないまま夜になるのを部屋で(うずくま)って待つよりいい。鹿島くんと話すのは慣れたし、すぐそこに桐椰くんと松隆くんがいるから、鹿島くんに何かをされる心配もない。

 存外、私って図太いな。もぐもぐとケーキを食べながら、鹿島くんが敵だってことは頭の片隅にあっても、実害を与えられない限り、こうやってあれこれどうでもいい言い合いをできる。なんやかんや言われながら御三家宛のバレンタインチョコレートを買って、鹿島くんのポケットマネーで鹿島くんのチョコレートを買って、その間、松隆くんのお父さんのことなんて忘れている。

 なんか、私、薄情だな。


「松隆の父親との食事、楽しんで来いよ。その前にあの二人からの説教が待ってるんだろうけどさ」


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