第四幕、御三家の幕引
 駅で別れる前、鹿島くんは相変わらず不気味な笑みで別れを告げた。嫌味もくっつけてくるものだから、改札を通るその背中に向かってあっかんべーをしてみせた。

 そして、そのまま背後に二人がやってくる。もちろん両方ともすごぶる不機嫌だった。


「なんで、君ら二人のデートを見せつけられないといけないの?」

「え、いや、ストーカーしてたのは松隆くんじゃん……?」

「鹿島のデート断らなかったのはお前じゃねーか」

「断り切れなかったもので……」

「ていうか、鹿島の選んだ服で食事っていうのが気に食わないよね」


 はーあ、と松隆くんは台詞通りに気に食わなさそうな溜息を吐いてみせる。

 次いで、不意に手を取られた。「え」と濁音付の声が出たし、桐椰くんが硬直した。

 そんな私達の反応にも構わず、松隆くんはじろじろと不躾に服を眺める。


「どれもこれも鹿島の趣味だと思うとね……。今から選び直しに行かない? 食事は間に合わせるから」

「いやいやいや!」

「待て待て待て。そこでなんでお前の趣味なんだよ!」

「俺の趣味、わりと正統派だけど?」

「お前の趣味が悪いって話じゃねーよ! なんでお前が選んだ服を着るんだ!」

「駿哉だって俺達が選んだ服着てるじゃん」

「駿哉とコイツは別だろーがよ!」


 本当に全くその通りだよ。それにしても、月影くんの私服……。それこそ鳥澤くんのデートを御三家がストーカーしてた時くらいしか見たことないけど、お坊ちゃま風の服着てたな。この二人のチョイスだったのか。


「じゃあ遼はいいの、桜坂、鹿島の選んだ服着てるけど」

「それは……まぁ……」

「ただ俺は桜坂にはフリルとか似合わないと思うからお前の趣味でも選ぶべきじゃないと思う」

「別にそんな趣味ねーよ! お前俺をなんだと思ってんだよ!」

「だったら選び直さない? そのために鹿島がくれた時間なんじゃないの?」

「え……松隆くんに貢がれるのなんかやだ……」

「確かに、俺も親の金で女の子に貢ぐのは嫌だね。貸すよ」

「なんで誰も彼も私に貸しを作っていくの! 闇金なの!」


 ぐあっと頭を抱える私の隣で微笑む松隆くんが憎たらしい。桐椰くんは微妙な顔をしているけれど、桐椰くんが微妙な顔をする状況は複数あったのでスルーだ。


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