第四幕、御三家の幕引
「まあブーツは無個性だから良しとして、この服はどうにかしたくなるよね。見てるだけでイライラしそうだし、食事中にうっかりワインかけて再起不能にしたくなる」

「松隆くんと明貴人くんって陰湿さどっちもどっちかもね」

「くそ不名誉なんだけど」

「すいません」


 冷ややかな声と乱暴な形容に迷わず頭を下げた。


「大体、俺と買いに行こうかって誘いを断って鹿島と買いに来てるの何? 嫌がらせ?」

「ほらそこは彼氏は明貴人くんだし……」

「だったら彼氏と買いに行くって言えば?」

「言ったらもっと怒ったよね……?」

「結局俺に伝わるんだからちゃんと言えば?」


 一気にその纏う温度が氷点下まで落ちた松隆くんの追撃は止まない。正論の金槌で殴られ、苛立ちの氷柱で刺され、今日の私は満身創痍だ。しょぼーんと小さくなって、両方の人差し指の先をつんつん合わせて、「でもぉー」なんてぶりっこしてみる。


「一応、建前としては、松隆くんにお断りを入れる必要は、ないことですしー」

「そうだね、もう下僕じゃないもんね」


 ここで“ただの友達だもんね”なんて言われたら益々松隆くんが分からない (どころかちょっと面倒くさい)ところだったけれど、予想に反して引っ張り出されたのはそこだった。面食らったものの、次の瞬間には呆れた溜息をつかれる。


「あのねぇ、今まで半分冗談みたいだったからこの際はっきり言っておくけど」


 な、なにを……?

「桜坂が鹿島とデートしてること自体はどうでもいい。鹿島の選んだ服を着てることもどうでもいい。鹿島っていう点で腹は立つけど、正直その意味ではどうでもいい」

「は、はい……」

「問題は、俺達が必ず見に来なきゃいけないこと。分かる?」

「あ、相手が明貴人くんだから心配してっていう」

「分かってるなら俺達に断りもなく監視が必要な状態でふらふらしないでくれる?」


 ぐ、と松隆くんの指に顎が捉えられた。外気温よりさらにひんやりと冷たい指先がしっかりと首から上の動きを奪い、冷ややかな目に見降ろされた。口だけ緩やかな弧を描いているのが一層怖い。

 つまり松隆くんの怒りポイントはここだ──絶対守ってもらえるからって調子乗って断りもなく危険なことすんじゃねぇよ、と。

 やはり正論だった。今日の私は、そういう運命にあるらしい。


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