第四幕、御三家の幕引
「……すいませんでした」

「分かればよろしい。遼、言いたいことある?」

「いや、俺は何も……」


 桐椰くんは拍子抜けしたような、酢を飲まされたような、とにかく戸惑いの表情を浮かべていた。怪訝な顔をする私達の前で、桐椰くんは、つつ、と松隆くんのコートの背中辺りをつまんで引っ張る。


「なんだよ」

「ちょっと」


 可愛らしく引っ張り、引っ張られした二人は、私に聞こえないようにコソコソと話す。


「お前、そういうのでいいの?」

「そういうのって?」

「なんかこう……アイツに注意したの、危ないことすんなら断り入れろってだけじゃん」

「でもそうでしょ?」

「……なんかこう……お前の前で鹿島とデートするとかどうなんだみたいな……」

「それ何様なの。そんなこと言う男、女々しいしうざいよ」


 何を話していたかは聞こえなかったけど、桐椰くんがガンッと鈍器で殴打されたような顔をしたのはよく分かった。


「で、桜坂。鹿島が選んだ服を着てるのは腹立たしいから選び直したいのはやまやまだけど、半分冗談だから、さっき言ったことはちゃんと気を付けてね。今後」

「はい。すいませんでした」


 半分冗談……。そうだよね、恋敵の選んだ服云々の点は冗談なんだよね。多分。


「で、遼は? どうするの?」

「……どうしようもねーだろ」

「じゃ、家まで送ろうか。もうその足で会食に行こう」


 ひょいと、松隆くんが私の手から制服の入ったショッパーを取り上げた。桐椰くんはローファーの入ったショッパーを取り上げる。鹿島くんの台詞が聞こえていたわけでもないだろうから、二人にとっても当たり前のことらしい。


「おじさんとの食事、どこで?」

「イリーネってとこ。お父さんがわりと無難に選ぶとこかなあ、そんなに敷居も高くないよ」

「ちょっと桐椰くん、ぐぐろ」

「そうだな」

「ちょっと」


 電車に乗った後、松隆くんの制止を無視し、桐椰くんのスマホでそのお店の名前を調べた。……平均予算三万円のイタリアンだ。


「……これ無難? 敷居高くない?」

「いや分かんない。俺には全然分かんない」

「遼のお母さんも会食でいくらでも使うと思うけど。手頃だし」

「弁護士の食事と俺達の食事を同じレベルで語るんじゃねーよ! しかも手頃じゃねーよ!」


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