第四幕、御三家の幕引
松隆くんのお父さん。お母さんのお墓参りで見たときと変わらない。
「あ、あの、こんばんは、ご無沙汰しております」
「いいよいいよ、そんなに畏まらなくて。ただの友達のお父さんだろう」
慌てて立ち上がった私に、松隆くんのお父さんは優しく笑った。松隆くんの笑い方と、似ている。
「今日は一日空いているはずだったんだけどね、急用ができてしまって、こんなぎりぎりに。すまないね、一人だと入りにくかっただろう」
「いえ、松隆くんが一緒に来てくれたので……」
「なんだ、暇だったのか」
「暇だよ、高校生の土曜日なんて」
松隆くんはお父さんの前でもいつもの松隆くんだった。変に敬語を遣っていないだけ、ほんの少し安心した。
「さて、飲み物はどうするかね。亜季ちゃんはワインは好きかね」
亜季ちゃん……? 松隆くんが胡乱な目を向けたし、私も動揺したけど、近所のおじさんに呼ばれてると思えばおかしくない。たとえ相手が俳優みたいにイケメンなおじさんでもおかしくない。
「え、いや、あの、私、お酒は……」
「あんまり好きじゃないか」
「いえ飲んだことないんですけど」
「はは、そうだろうなあ、桜坂は真面目だから」
お父さんのことだ。お父さんとの関係を問いただしたい気もしたけれど、ジュースもあるよとメニューを見せられたので、話は後になった。
「亜季ちゃん、総二郎と仲良くしてくれてるんだろう。コイツは我儘で面倒くさくて大変だろう」
確かに我儘で面倒くさいな、松隆くん。言えないけど。
「いえ、そんなことは……。大体は桐椰くんがお世──……桐椰くんと仲良くしてるみたいですし」
「いまお世話って言おうとしたよね?」
「やめてよお父さんの前で言うの!」
そして松隆くんはお父さんの前でも容赦がない。お父さんが「本当のことだから仕方ない」なんて笑ってるからいいけど、傍目には松隆くんは見た目も中身も非の打ち所がない超立派なご子息だ。私ごときが我儘だの性悪だの文句をつけるなんて烏滸がましいどころの騒ぎではない。きっと松隆くんのお父さんは、場を和ませるためにそんなことを言ったのだろうけれど。
「あ、あの、こんばんは、ご無沙汰しております」
「いいよいいよ、そんなに畏まらなくて。ただの友達のお父さんだろう」
慌てて立ち上がった私に、松隆くんのお父さんは優しく笑った。松隆くんの笑い方と、似ている。
「今日は一日空いているはずだったんだけどね、急用ができてしまって、こんなぎりぎりに。すまないね、一人だと入りにくかっただろう」
「いえ、松隆くんが一緒に来てくれたので……」
「なんだ、暇だったのか」
「暇だよ、高校生の土曜日なんて」
松隆くんはお父さんの前でもいつもの松隆くんだった。変に敬語を遣っていないだけ、ほんの少し安心した。
「さて、飲み物はどうするかね。亜季ちゃんはワインは好きかね」
亜季ちゃん……? 松隆くんが胡乱な目を向けたし、私も動揺したけど、近所のおじさんに呼ばれてると思えばおかしくない。たとえ相手が俳優みたいにイケメンなおじさんでもおかしくない。
「え、いや、あの、私、お酒は……」
「あんまり好きじゃないか」
「いえ飲んだことないんですけど」
「はは、そうだろうなあ、桜坂は真面目だから」
お父さんのことだ。お父さんとの関係を問いただしたい気もしたけれど、ジュースもあるよとメニューを見せられたので、話は後になった。
「亜季ちゃん、総二郎と仲良くしてくれてるんだろう。コイツは我儘で面倒くさくて大変だろう」
確かに我儘で面倒くさいな、松隆くん。言えないけど。
「いえ、そんなことは……。大体は桐椰くんがお世──……桐椰くんと仲良くしてるみたいですし」
「いまお世話って言おうとしたよね?」
「やめてよお父さんの前で言うの!」
そして松隆くんはお父さんの前でも容赦がない。お父さんが「本当のことだから仕方ない」なんて笑ってるからいいけど、傍目には松隆くんは見た目も中身も非の打ち所がない超立派なご子息だ。私ごときが我儘だの性悪だの文句をつけるなんて烏滸がましいどころの騒ぎではない。きっと松隆くんのお父さんは、場を和ませるためにそんなことを言ったのだろうけれど。