第四幕、御三家の幕引
 実際、ワインとジュースが運ばれてきて、松隆くんのお父さんが「すまないね、おじさんだけ飲んで」と呑気に笑ったときには、私もなんだかほっと安心したような気がした。そうだよね、こんなレストランで、相手がお偉い社長さんだとしても、友達のお父さんだもんね。きっと桐椰くん達が小さい頃に肩車してもらってた相手とかだもんね。そんなに畏まることはないよね──。

 なんて安堵も束の間、お皿の上に載っているメニューの説明がされ始めたあたりから、再び動悸(どうき)がし始めた。カタカナで「それ何?」みたいな料理名が書いてあるし、「お好きなものを三つお選びください」なんて言われてもどれが何なのか分からない。松隆くんと松隆くんのお父さんは普通に選んでるけど、私には選べない。仕方なく二人の選んだものと同じものを選んだ。

 しかもメニューの書かれた紙をテーブルの上に移すと、メニューの載っていた大皿は下げられた。さっきまで目の前にあったご立派なお皿はメニューの紙切れ一枚を載せるためだけにあったお皿だったということ……? メニューの紙のためのお皿って何……?

「前菜でございます」


 前菜の立ち位置なんて読んで字のごとくなのに、この時点でウナギとキャビアが出てきた。私のイメージするメインメニューが序盤で出てきてしまった。意味が分からない。フォークとナイフだって、噂に聞く通り端から使えばいいんだろうと思っていたら、どうしてもスプーンが必要で、スプーンは右から二番目に置いてあった。なぜだ。端だけ使ってたら料理を食べれないし、端以外も使ったら中途半端に余る……!

「そんなに緊張して食べなくても」


 ちらちらと松隆くんを見てお手本にしようとしていたのが伝わったんだろう、松隆くんのお父さんにまた笑われた。


「最初も言ったとおり、友達のお父さんとの食事なんだから。近所のおじさんとファミレスで食べるのと変わらないと思って」

「いえ、だいぶ違うと思うんですけど……」

「でも本当、そんな気にしなくていいよ。想像するより格式ばったところじゃなかったでしょ?」


 いや、そうは言うけど、松隆くん自分の尋常じゃない育ちの良さ自覚したほうがいいからね? めちゃくちゃ綺麗に食べてるからね?

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