第四幕、御三家の幕引
「そんなの、特別な理由なんてないさ」

「何か教えたくない理由があったんじゃないの?」

「例えば?」

「……例えばってほどでもないけど」


 ふい、と松隆くんは顔を背けた。本当にこの親子怖いんだけど。


「失礼します。次のお料理ですが──」


 ただ、料理が運ばれてくればその説明があるので、話題はひと段落、松隆くんの切込みも一時休戦。


「本日、黒トリュフが入荷しております。よろしければパスタに追加できますが、いかがでしょう。お一人様あたり、このように……」


 店員さんは松隆くんのお父さんにカードを見せた。多分トリュフを添えたらお値段プラスいくら、なんていうのが書いてあるんだろうな。松隆くんのお父さんは、うんうん、と頷いて私達を見る。


「どうする?」

「俺はパス、特別好きってわけじゃないし、隣で香れば十分」


 トリュフが特別好きってわけじゃないって何? 私には味も分からないんだけど何?

「亜季ちゃんはどうする?」

「あ、いえ、私は……」

「嫌いじゃないなら、折角ならもらおうか。私と彼女の分だけお願いするよ」

「畏まりました」


 絶対私に気を遣わせないために松隆くんのお父さんもかけてもらうことにしたに違いない……! 心の中で申し訳ない気持ちになる。


「本当に気を遣わなくていいんだよ。大して値段は変わらないし、そもそも子供二人を前に私一人が食べるのは気まずいから付き合わせただけだ」

「すいません……」


 絶対逆じゃん……。ていうかこんないい大人の息子が松隆くんってどういうことなんだろう……。いや、松隆くんもしようと思えばこのくらいの気遣いできちゃうんだろうけど……。

 しょぼしょぼした私の前で、二人は「そういえば栄一郎から連絡はあるか」「昨日来たけど」「まったく……お父さんには何の連絡もしないで……」と少しだけ松隆くんのお兄さんの話をしていた。そんな二人が不意に顔を上げる。


「すごいね、ここまで香りがする」

「そうだなぁ、さすがだな」


 何の香りだっていうんだ、と思えば、先程のトリュフだった。そんな話題になるほど香りなんてしたっけ? 私って鼻まで庶民なのかな?

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