第四幕、御三家の幕引
 ただ、さすがの庶民の鼻も、目の前でトリュフを削られるとその香りが分かった。運ばれてきたパスタの上で黒トリュフ削られ、花びらのように積もっていく。ほう、これがトリュフ……、と私は見つめてしまったけど、二人は慣れてるみたいで、私と違って感動したような顔はしなかった。

 しかも、いざトリュフとパスタを食べようとしたけど、どう食べればいいのか分からない。上に載っているトリュフはポテトチップスみたいに薄っぺらくて、これだけ食べるのは変だ。かといって、パスタは芸術的にまかれ過ぎてどうフォークをつければいいのか分からない。トリュフさえなければ一口で食べれてしまいそうなパスタだけど、そんな大口を開けるのは品がないのだろうか。もうやだ。


「そういえば、亜季ちゃんは、お父さんとは家で話はするのかね」


 が、突然そう切り込まれ、パスタの食べ方をどうしよう、なんて悠長なことは言ってられなくなった。松隆くんのお父さんに他意はないのかもしれないけれど。


「いえ……。元々、父が仕事で帰る時間には私が寝てしまっていることが多くて。朝が一緒になったら、時々話すことはあるんですけど」

「ああ、じゃああんまり学校で何があったとかいう話もしない?」

「しないですね……。それこそ朝が一緒になった時に聞かれることはあるんですけど……」


 あの人は、私とお父さんが、親子の会話をするのを嫌がるから、あまり話すことはできない。でも今ここでそんなことを口にすることはできなかった。


「たまにしか聞かれないと、父も私の友達のことは分かりませんし、そうなると話もしにくくて」

「ああ、そうか、そうかもしれないね」

「松隆くんは、お父さんにそういう話はするんですか?」

「いやあ、遼くんと駿哉くんの話しかしないなあ。その二人しか友達がいないんだろう」

「もう少しいるよ」

「と本人は言うけど、亜季ちゃんから見ていてどうかね」


 嘘ではないかもしれないけど、その二人レベルに仲良しな友達は他にいない。間違いない。


「……どうなんでしょう。松隆くんは七組で、私は四組なので、あまり普段の松隆くんを見る機会もなくて」


 でもやっぱりそんなことはいえない。そうかあ、と松隆くんのお父さんは顎に手を当てる。


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