第四幕、御三家の幕引
「私結構空いちゃったから、これじゃ足りない気がするんだよね……」


 あるのはソフトクリームとかホットドッグ的な軽食だけだ。水族館内のカフェなので仕方がないのだけれど、ホテルに帰るまでこれでもつかと言われたら絶対にもたない。


「まぁそうだよな……でも来るまでにめぼしいカフェなかったろ」

「……ここで繋ぎ食べとくってこと?」

「あぁ。まぁどんなに遅くても二時半には出るだろうし、そこから本町まで戻って心斎橋筋で適当にどっか入ればいいんじゃね。そうすれば最終日は難波ゆっくり歩けるし」


 桐椰くんの頭の中には地図があるらしいけれど、私にはなんのことやらさっぱりわからない。訝しみながら「うん? うん」と適当に頷いた。


「じゃあとりあえず月影くん達と合流して……」

「薄野と駿哉ってどうなの?」

「ひえぇっ?」


 唐突な桐椰くん以外の声に驚いて体が飛び上がった。背後では、素知らぬ顔をした松隆くんが、その視線をカフェ内の二人に向けている。因みに桐椰くんは松隆くんの接近に気付いていたらしく、特に驚いた顔もしていない。私一人叫んだのが馬鹿みたいだ。


「どうって?」

「薄野は駿哉の嘘に付き合ってたわけでしょ、半年以上も」


 桐椰くんは松隆くんの意図が分からずに首を傾げてみせるけれど、松隆くんの声は淡々と二人の関係を──ふーちゃんの感情を暴こうとする。


「雁屋の話だよな? 薄野と雁屋も仲良かったんだろ、それなら駿哉に言われた通りのシナリオに話合わせてても不思議ってほどじゃねーけどな。……つーか、そんな嘘吐きたくはねーけど、お前がそうしたいって言うならそうするって俺も言うと思う」

「俺は多分本当のことを話すべきだって駿哉と喧嘩になるだろうけど、遼はそうだろうね」

「だろ? だったら……」

「それはさておき、今まで薄野と駿哉は一切絡みがなかったのに、なんで急にああなったんだろうね」


 その違和感は当然で、実際私自身が抱いているものでもあった。月影くんが口裏合わせを頼んだときに、月影くんがいいならそれでいい、と首肯して、それでも気まずさを拭うことができずに段々と疎遠になってしまうというのは分からなくもない。体育祭のときに御三家と顔を合わせても月影くんには何も話しかけなかったふーちゃんは、まさにその状態だった。

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