第四幕、御三家の幕引
「亜季ちゃんは文系と理系どっちかね。文系なら三年次は総二郎と同じクラスになるかもしれないなあ」

「あ、そっか、文理で分けるから同じになる可能性が……」


 え、気まずいなー。確か桐椰くんも文系だし……。月影くんは理系だから絶対被らないけど、鹿島くんも文系だから一応同じクラスの可能性があって……。ただ鹿島くんは私文だから国文コースには来ないかもしれないけど……。


「まあ、きっと桐椰くんがお世話してくれるんじゃないでしょうか……」

「ああ、遼くんがね。本当に、遼くんはお兄ちゃんだからなあ。弟がいるだけで随分違うもんだよ」


 しかも、お兄ちゃんもあの彼方だもんなぁ。根はまともな人なんだけど、日頃は軽薄だから、あんまりお兄ちゃんとしての頼りがいはない気がする。いざとなればいいんだけど。

 そんな話をしているうちに料理は進み、口直しだという柚子のシャーベットが運ばれてきた。シャーベットはスイーツの一種だと思っていたので、口直しに使うなんて驚きだ。つくづく、私って庶民だな、と思わされる。

 メインメニューは三種類の中から選べたのだけど、三人揃って和牛ステーキみたいなものを選んだので、運ばれてきたものは同じだった。溶岩石というやつだろうか、そんな黒い重々しいお皿にお肉は載っていて、「内側は赤いですが、十分に火は通っております」とのことだった。「お好みでつけてお召し上がりください」という調味料はお塩が三種類とソースが二種類。お肉がくる少し前に、松隆くんのお父さんは赤ワインを選んでもらって、グラスを追加していた。


「うん、よく合う」

「……美味しいですね、お肉」

「そう? それはよかった。ここのお店、結構人気でね、予約が取りにくいんだよ。気軽な食事にしたかったから、丁度空いていてよかった」


 正直、味なんてしなかった。いや、味はしていた。すごぶる美味しかった。しつこくないお肉の油とか、分厚い見た目とは裏腹の柔らかさとか、ぐっと味が変わる調味料の一つ一つとか、何もかもが美味しかった。

 ──ということは、分かった。多分、私が今まで食べてきたお肉の中で一番美味しいことは、よく分かった。他の料理だって、正直食べ方には難儀したけれど、間違いなく美味しいことはよく分かった。

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