第四幕、御三家の幕引


 最初の質問を間違えたことに気付いた。どうして私“だけ”を呼んだのかと、聞きたかったんだ。


「特別な理由はないよ。桜坂がいなくてもいいことだし、それならそのほうが都合を合わせやすいと思っただけだ」

「私の、お母さんが関係あるんじゃないんですか」


 ぴくりと、松隆くんの眉が動いた。いいんだ、どうせいつかバレることだ、今言ったって構わない。


「秋に、私の母の、お墓参りに来てくださってましたよね」


 サッ、と松隆くんの顔色が変わる。松隆くんは私の家族構成を知っている。つまり、戸籍上母親になっている人が生きていることを知っている。結果、今、私が養子だと分かったはずだ。


「そうだね。私も、亜季ちゃんのお母さんも、お父さんも、みんな同じゼミ生だった」

「それって、一人でわざわざお墓参りをするほどの仲なんですか?」


 その一言が、私の疑念の内容を説明するのに十分だった。松隆くんは素早く視線を移したし、注視された松隆くんのお父さんは何も言わなかった。


「本当は……、本当は、私の父ではなくて、松隆くんのお父さんが……」


 だから、なのか。続く言葉が出てこなかった。どう言葉を選べばいいのか、口の中で単語が迷子になっている。頭が熱くて、真っ白だ。喉が苦しくなって、これ以上喋ると涙が出てしまいそうだった。

 本当は、今の父親じゃなくて、松隆くんのお父さんが、私のお父さんなんじゃないんですか。だからお墓参りをしてたんじゃないですか。だからこの食事は娘と話をするだけのものなんじゃないですか。だから特別な話題が何もないんじゃないんですか。

 そう矢継ぎ早に繰り出してしまいたかった。

 それができなかったのは、この想像が全て本当だと言われるのが、怖かったからだ。

 口火を切った私が何も言えなくなってしまったせいで、沈黙が落ちた。ドクンドクンと鳴る心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うほどの静けさ。それとは裏腹に重たい空気。お互いにお互いの腹の内を探り合っているような、そんな居心地の悪さが漂う。

 ややあって、松隆くんのお父さんが口を開いた。


「……亜季ちゃんと食事をしようと思ったのはね」


 リップ音が、穏やかな声が、急に怖くなった。結末を求めたくせに、それを知りたくなくなった。

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