第四幕、御三家の幕引
挑戦的なんかじゃ到底ない、ただ怯える目になった私に、松隆くんのお父さんはビジネスバッグの中から荷物を取り出した。
「これを渡そうと思ったからだよ。桜坂には、内緒でね」
渡されたのは、臙脂の表紙の、A4サイズのアルバムだった。
おそるおそる開くと、当然、写真が貼ってある。
「……三月、亜季……亜季、一カ月……って……」
自分の赤ん坊の顔なんて知らない。でも名前が書いてあるというのならそうなんだろう。
「正真正銘、君のアルバムだよ」
それを、お父さんには内緒で、松隆くんのお父さんが持ってるって。
「それって、つまり……」
視界に映る松隆くんの顔が、青ざめていた。顎に手を当てて口元を隠して眉間に深く皺を刻んでいる。何か、この疑念を否定できる決定的な証拠はないか、そう思って頭をフル回転しているように見えた。
ただ、松隆くんのお父さんは、そんな息子の様子とは裏腹に顔色一つ変えなかった。穏やかな表情のままで、まるでその秘密が明るみになるのを覚悟していたかのようにしか見えなかった。
手が震えた。今から口にされる答えが、私と松隆くんの関係を百八十度変えてしまうのだとしたら。
「それはね、君のお母さんから預かっていたんだ。君に渡して欲しいと言われて」
カチャン、とカップとソーサーのぶつかる音が、不気味に響いた。
「まず、言っておくとね。君の父親は、間違いなく桜坂で、母親は、間違いなく花枝だよ」
──ぐらぐらと、頭が、揺れる。
「……え……っと……?」
本当は、松隆くんも詰問したくて仕方がないところだったんだと思う。でも、私があまりに狼狽えていたのが表情だけで明らかだったのと、きっと私が聞くべき話だったから黙っている。
「なんで……それなら、アルバムを持って……え……?」
「……桜坂から聞かされたと思うけどね、君は、桜坂が結婚して長男が生まれた後、桜坂と花枝の間に生まれた」
「……俺、席を外そうか」
「……ううん、別にいい」
松隆くんの横顔は凍り付き、断る前にもう席を立とうとしていた。でも、それはどうでもよかった。もう松隆くんに知られたって、どうでもいいことだ。
「これを渡そうと思ったからだよ。桜坂には、内緒でね」
渡されたのは、臙脂の表紙の、A4サイズのアルバムだった。
おそるおそる開くと、当然、写真が貼ってある。
「……三月、亜季……亜季、一カ月……って……」
自分の赤ん坊の顔なんて知らない。でも名前が書いてあるというのならそうなんだろう。
「正真正銘、君のアルバムだよ」
それを、お父さんには内緒で、松隆くんのお父さんが持ってるって。
「それって、つまり……」
視界に映る松隆くんの顔が、青ざめていた。顎に手を当てて口元を隠して眉間に深く皺を刻んでいる。何か、この疑念を否定できる決定的な証拠はないか、そう思って頭をフル回転しているように見えた。
ただ、松隆くんのお父さんは、そんな息子の様子とは裏腹に顔色一つ変えなかった。穏やかな表情のままで、まるでその秘密が明るみになるのを覚悟していたかのようにしか見えなかった。
手が震えた。今から口にされる答えが、私と松隆くんの関係を百八十度変えてしまうのだとしたら。
「それはね、君のお母さんから預かっていたんだ。君に渡して欲しいと言われて」
カチャン、とカップとソーサーのぶつかる音が、不気味に響いた。
「まず、言っておくとね。君の父親は、間違いなく桜坂で、母親は、間違いなく花枝だよ」
──ぐらぐらと、頭が、揺れる。
「……え……っと……?」
本当は、松隆くんも詰問したくて仕方がないところだったんだと思う。でも、私があまりに狼狽えていたのが表情だけで明らかだったのと、きっと私が聞くべき話だったから黙っている。
「なんで……それなら、アルバムを持って……え……?」
「……桜坂から聞かされたと思うけどね、君は、桜坂が結婚して長男が生まれた後、桜坂と花枝の間に生まれた」
「……俺、席を外そうか」
「……ううん、別にいい」
松隆くんの横顔は凍り付き、断る前にもう席を立とうとしていた。でも、それはどうでもよかった。もう松隆くんに知られたって、どうでもいいことだ。