第四幕、御三家の幕引
それは、どういう意味だろう。松隆くんのお父さんは松隆くんと私の関係を知っているのだろうか。知った上でなぞらえているのだろうか。
「君が怒るように、花枝も怒ることがあったし、君が哀しくなるように、花枝も哀しくなることがあったし、君が逃げ出したくなるように、花枝も逃げ出したくなることがあった」
「……だから逃げ出したっていうんですか」
「……花枝は、強い人ではなかったから」
松隆くんのお父さんは肯定はしなかったけど、肯否を避けたのが答えのような気がした。
でも、そうだとしてなんだっていうんだろう。お母さんは強い人じゃなかったから私を捨てて逃げ出した? 別に、そんなこと分かる。現に逃げ出したんだから、強い人じゃなかったんだろうなとは思っていた。
「でも、花枝は真面目な人だった。怒ってはいけないと自分を諫め、哀しみを見せてはいけないと自分を抑え、逃げ出してはいけないと我慢していた。全て自分の責任だと感じていた。そうやって自分を責めているうちに、心を病んでしまっただけだ」
……だから、私にお母さんを責めるなというんだろうか。そんなことを言ってるなら見当違いだ。だって私は別にお母さんを責めてない。責めるとしたらお父さんだと思うし……、お母さんに対してあまりそういう気持ちはなかった。
「……別に、私はお母さんのこと恨んでません」
「でも、興味もないんだろう」
抉るような踏み込み方は、松隆くんに似ていた。
「……当たり前です。だって……」
だって、興味なんか持っても、意味がない。
お母さんは私よりも死ぬことを選んだ。それは私を捨てて逃げ出したかったからだ。そんな人に興味を持っても、私に興味のないことを知るだけだ。そんなの意味がない。そんなの──。
「……そんなの、虚しくなるだけじゃないですか」
なぜ、お母さんは、私を見てくれなかったんだろうと。
そう呟いて、気が付く。今日、鹿島くんに言われたこと。
『自分に構ってくれる人が好きなんだな』