第四幕、御三家の幕引
 ……私を見るたびに、お母さんは泣いていた。きっと私の顔立ちには──私の目には──お父さんの面影があったから。きっと見るたびに辛かったんだと思う。どうやらお父さんのことをずっと好きだったようだし、何より、お父さんに似ている私はお母さんの(あやま)ちの証拠だから。だから、せめてもの罪滅ぼしのように、結婚相手との子供ができることを切望していた。男の子が生まれたら匠と名付けようと決めていた。生まれないことが分かった後も、匠がいればよかったのにと嘆いていた。

 幕張亜季は要らなくても、幕張匠なら必要としてもらえるんじゃないかと、私はどこかで思っていた。


「そんなことはない。花枝は君を愛していたよ」

「……そんなの嘘です。だって私を捨てて死んだ」

「嘘だったら、そんなアルバムがあるわけないだろう」


 抱きかかえているアルバムを、再び(めく)る気にはなれなかった。松隆くんのお父さんの言葉を信じる理由なんて何もないから、私にとってのこれはただのパンドラの箱だ。


「花枝が死んだのは、君を愛してなかったからじゃない。花枝は本当に君のことを愛してた。ただ、心を病んで、死んでしまった」

「……じゃあ」

「花枝が亡くなったのは君のせいではないし、花枝が君を愛していたのは事実だよ。君が花枝に何を言われていようとね」

「……最後の最後には邪魔になったんじゃ」

「本当はね、私が君を引き取る予定だったんだ」


 思わぬ告白に、いつの間にか俯いていた顔を上げた。一言も口を挟まない松隆くんも驚きを露わにお父さんを見る。


「……何でですか」

「花枝は、桜坂に頼ることはできなかった。それはしてはいけないと、彼女は思っていた。だからといって私に頼ったわけじゃない。私が勝手に気にかけてただけだけど」

「……なんでそこまで」

「学生の頃、好きだったからね」


 迷いも躊躇いもない告白だから、本当だと思わせる。すっかり想い出になってしまった恋を懐かしむように、松隆くんのお父さんは微かに笑った。

 でも、疑心がそれだけで消えるはずがない。じゃあ、やっぱり、松隆くんのお父さんがお母さんとお父さんを別れさせた?

「元々は、君が生まれる前に相談を受けた。いい産科医の知り合いはいないかと言われて、月影に頼んで、月影の知り合いを紹介したんだ」


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