第四幕、御三家の幕引
 ドックン、と心臓が跳ね上がった。月影くんのお父さんまで関わっていた……。ぎゅ、とアルバムを抱く腕の力を強める。私と御三家は、まるで、お母さん達の関係を世代を越えて映した鏡のようだ。


「私は当時もう結婚していたし、もちろん花枝に特別な感情はなかった。学生のときも、桜坂にとられて、結局友人止まりだったしね。でも、いい友人だったから、花枝に頼られたときに助けにはなりたくて、まぁ、ちょっと格好つけたい気持ちもあったんだろうな」


 段々と砕けて若返る口調は、松隆くんにそっくりだった。本当に、まさしく今の私達を見せられているような気持ちになる。


「まあ、そんなことをしているうちに事情を聞いて……よく連絡をとっていた。花枝が頼れるのは自分しかいないという自信というか……(おご)りというか、そんなものもあったし。それで、いつだったかな、何かあったら君のことを頼むと言われて」

「……引き取ってくれ、と?」

「いや、花枝としては施設にきちんと入れる手配だけお願いしたいくらいのことしか言わなかったけど、そう言われて私が引き取るつもりになったんだよ。花枝には学生のときに世話になったし」

「……昔好きだったっていうだけで、そんなことまでできるんですか」

「だって、花枝が君のことを愛してるって知ってたから。それを知って育ってほしいと思っていたから」


 迷いのない返事と、空虚な愛の言葉。

 愛してる、アイシテル、あいしてる──。その言葉は、いつだって、中身を()り貫かれた型だけになって頭の中に入ってくる。どうしても、その言葉が、お母さんと──何より私と、結びつかなかった。


「桜坂だってそうだよ。桜坂は、花枝が亡くなるまで、君が自分の子供だなんて知らなかった」

「……え?」


 耳を疑う私に「そう聞いていなかったのかい?」と寧ろ不思議そうに返される。聞いてないし、そもそもそんなはずない。お父さんは最初に迎えに来たときに言ったんだ、「生まれてから何年も──ずっと何も言わずにいて」と、まるで知ってて放っておいたかのように。大体、お母さんが死ぬまで知らなかったならそう言えばいい話なのに。


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