第四幕、御三家の幕引
「それどころか、下手をすれば一生知らないままだったかもしれない。花枝には、桜坂には絶対言わないでくれと口留めされていたし、以来桜坂が同窓会に来ることもなかったし。だから桜坂はずっと何も知らないで──花枝が亡くなった後も、まさか自分の子供が一人残されたとも思わないから、花枝に一人娘がいると聞いて、心配していたくらいだ。様子を見に行こうとはしていたようだよ。ただ急に知らないおじさんが出てきてもおかしいし、息子に行ってもらったんだと聞いた」

「……嘘」

「本当だよ。そうやって花枝の娘だというだけで気にするから、何も伝えないでおくのは──私自身が引き取ろうかと考えていたところだったのに、本当の父親に伝えないのは話がおかしいだろう。そこで漸く伝えたんだ」


 だから、最初は孝実が来た? あれは、お父さんが私に顔を合わせづらいから、孝実を介して間接的に探りを入れているのだと思っていた。


「結果、真っ青になって、本当なのかと、何度も私に確認した。本当だと分かると一目散にその場を去って……奥さんに頭を下げに帰ったらしい。君を引き取る環境を整えるために。次の日には君に会いにも行ったんじゃないかな」


 私が知っていた真実と、違う。私が見ていたものと違う。そのせいで、あの時から抱いていた感情が行き場をなくしてしまった気がして、どうしようもなく、心がぐらぐらと揺れる。アルバムを抱える手だって、力の入れ方を忘れてしまった。座っていなければ腰が抜けていたかもしれない。


「君が花高に編入した経緯も、もう聞いただろう。桜坂に頼まれて、私が紹介状を書いたんだけれど、十五年間何もできなかった分、いい高校に通わせたいんだと言っていた。花高の経歴はOBOGとの関係でとても役に立つから、将来の君の少しでも役に立つように」


 あの人が、私を花高へ入れると決めたのは、世間体だった。……そう、聞いていた。

 でも、お父さんは違ったというのだろうか。花高を出たら将来役に立つから──私自身のためになるから、花高に入れたいと、考えてくれたというのだろうか。あくまでも、あの人は世間体のために納得したに過ぎず、お父さんの配慮ありきの編入だったのだろうか。

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