第四幕、御三家の幕引

(四)夢路は君を置き去りに

「……あのさ、なんであの話、俺にしたの」


 滅多に顔を見合わせることのない場所で、思いもよらぬ話題を口にする。


「別に、お前にしちゃいない」

「俺を呼んだってことはそういうことでしょ。他に何か理由があったんじゃないの」


 あのエピソードは、あまりに桜坂にとって都合が良すぎたから──そこまでは言わなかったけれど、どうせ伝わっている。海千山千の父親のポーカーフェイスを見破れないのがもどかしかった。


「……そうだな」


 煙草でも吸っていれば、きっとその火を灰皿に押し付けて、溜息と共に紫煙を吐き出していただろう。そんな様子で、やっぱり、他意を告白する。


「もちろん、わざと聞かせたんだ」


 知らないうちに握っていた拳の中で、じんわりと汗が(にじ)んだ。





 最近毎月のように暴動必至イベントの待ち構える花高校。今月は、バレンタインデーである。


「きーりやくん!」


 スキップでもしそうな勢いで桐椰くんを呼ぶ女の子は朝から絶えない。甘いものに目がない桐椰くんは次々と女子に捕獲(ほかく)され、手作りチョコレートを渡される。


「あのね、フォンダンショコラ作ったの、よかったら食べて」

「クッキー焼きすぎちゃったからあげるね」

「桐椰先輩、ずっと好きでした! 付き合いたいとかじゃないんです、受け取ってください!」


 バレンタインだから、バレンタインなんて関係ないし別に好意もないしただ余っただけだから、純粋に好きだから、なんて種々の理由で繰り広げられる桐椰くんへの貢ぎ物。告白はこっそり校舎裏でされるもの、なんて常識はどこへやら、教室での公開告白も午前中だけで優に片手が埋まるほどなされている。ま、こっそり告白するのは好きなのを隠してるからだもんね。御三家が相手なら好きで当たり前だから何もこそこそすることないもんね。
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