第四幕、御三家の幕引
「大変だね、ツッキー!」
「俺には関係ない話だが」
「いや、関係ありますよね。関係なくしてるんですよね。月影くんずっとイヤホンしてガン無視決め込んでただけだったよね」
昼休みに月影くんのところへ遊びに行くと、群がる女子など見えない聞こえないといわんばかりに音楽を聴きながら読書を決め込んでいた。いい加減諦めた女子の壁が少し解体されたところで、暇だから構ってよう、と引っ張りだすと一緒に廊下に出てくれたので、本を読んですらいなかったらしい。
「あ、そうそう、それでね、これ御三家にチョコレートね。第六西に置いてみんなで食べてね」
「はあ……」
「お礼くらい言ってよ。なんで溜息なの」
「土曜日に鹿島と一緒に買ったことを聞かされているからだが?」
「やだなー、ツッキー、私と明貴人くんの関係に嫉──痛い!?」
パーンッ──、と、とてつもなく激しい打撃音が響いた。叩かれた側頭部を涙目で押さえる。どうやら月影くんの手にあった本は読むためのものではなく叩くためのものだったらしい。
「い、痛い……そんなに強く叩くなんて……」
「悪ふざけが過ぎるので躾が要るのかと思ってな」
「すいませんでした……以後気を付けます……」
紙袋を受け取った月影くんは、銘柄を見て「ああ、遼の好きなものだな」なんてコメントした。狙ったつもりはなかったし、ややこしいことにならないといいのだけれど……。
「で、いい加減鹿島の狙いはわかったか?」
「あ、まだなにも」
「は? 間者なら今すぐ首を飛ばしているところだが?」
「なんでそんな怖いこというの? ていうか間者って今時言うの? スパイじゃダメなの?」
「一体何のために鹿島と三カ月も付き合っているのか……。せめて今月中には成果を出して欲しいところだが」
「や、だから私、別に御三家のスパイになるために鹿島くんと付き合ってるわけじゃないですよね」
「そうだな。俺達には関係のないことだからな。どちらかといえば、鹿島が危害を加える相手は君であるわけだから」
そういうことにはなっている。だったら猶更、御三家が気付かないうちに、私は鹿島くんの真意を暴いて御三家を守るくらいしたいんだけどな。
そんなことを思いながら月影くんを眺めていて、ふと気が付いた。
「ツッキー、背伸びたね?」