第四幕、御三家の幕引
「そうか?」

「なんか……あれ? ちょっと待って、なんか随分伸びたよね?」


 机を離れるときも、わりとぬっと大きかった気がしたけど、隣に並んでみると一層大きい気がする。こんなに見上げるほど身長違ったっけ?

「ツッキー、いま何センチ?」

「知らん」

「えー」

「何してるの?」


 手を一生懸命伸ばして月影くんの頭上で手を水平に振っていると、松隆くんがやってきた。多分クラスにくる女子から逃げてきたんだろう。胡乱(うろん)な顔は疲れてもいた。


「桜坂が俺の身長が伸びたと言い始めただけだ」

「……確かに伸びたよね? ちょっと背中合わせよ」


 周りの女子の視線も無視して、二人は呑気に背中を合わせ始める。そのまま松隆くんが自分の頭に手を載せ、「んー……」と身長差を確認するような仕草をとるけど、手は斜めになっているので上手く測れなさそうだ。そんな二人に「え、なにあれ、可愛い……」と廊下の女子がざわざわしている。平和だな!

「どっちが高いか分かんないじゃん、これ」

「桜坂」

「はいはいはい! ……ツッキーのほうが高いんだけど、元からツッキーのほうが高かったっけ?」

「え?」


 松隆くんは月影くんの顔を覗き込むようにしながら背中を離し、正面に立つ。月影くんは、さっき私がしたのと同じように自分の頭上で手を水平に動かす。


「……追い越したな」

「そんなことある? 夏まで俺のほうが高かったし、俺だって結構伸びたよ」

「俺も伸びた」

「確かに、かなり伸びたよね……。ちょっと保健室行かない?」

「そこまでしなくてもいいんじゃないか」

「なんか腹立つから」


 子供か! でも月影くんも伸びた自分の身長が気になるらしく「確かに目線はかなり変わった」と頷きながら一緒に保健室へ行こうとする。え、私、こんなきゃっきゃしてる女子ばっかりの廊下に一人で残されるの? それはやだな。


「私も伸びた気がするから測りにいこーっと」

「ああ、周囲の高さとの差を考えれば君は夏より三センチ程度伸びただろう。結果は分かったから来なくていいな」

「ついて来られたくないからってそんなこと言う人初めて見たよ! 適当に私の身長決めないでよ!」

「遼は? ついでだからアイツも一緒に測りたいんだけど」

< 235 / 463 >

この作品をシェア

pagetop