第四幕、御三家の幕引
「昨日ベッドの上に置いてあるの見たけど、回収した?」

「あ、それかも。……授業終わってから見に行くか」


 もう昼休みが終わる時間だからだ。ぞろぞろと保健室を出ながら、ふと桐椰くんとカーディガンという組み合わせの違和感に気付いた。


「桐椰くん、パーカーやめたの?」

「今更だね」

「気に入ってたグレーのパーカー、さすがに毛玉だらけでさ……いま代打でカーディガンが出てる」


 なるほど、副会長は関係ないんですね。桐椰くん根は真面目だと思ってたけどそうでもないな。


「カーディガン、きつくて嫌いなんだけどなー。上着なんて羽織ろうもんなら肩の可動域減るし。お前よく着てられるよな」

「体格の問題じゃないの。俺、わりとカーディガンもゆるく着れるし」

「野球で肩回りごつくなったからなぁ……もやしよりはいいけどさ」

「それ、俺がもやしみたいだって言ってんの?」

御三家って頭は良いのに喧嘩は低レベルなんだよな……。「だってお前握力俺より弱いじゃん」「遼の握力がゴリラなだけんじゃないのそれは。お前がドラミングし始めたら笑うくらいはしてあげるよ」「そこまで筋肉バカじゃねーよ俺は! つか握力強いからゴリラってなんだ謝れ!」「ゴリラに?」「俺に! つか握力強いヤツ全員に!」なんて背後から聞いてて恥ずかしいし、私が御三家のマネージャーの立場だったら人前では話さないように言い聞かせるまである。

 そんな馬鹿馬鹿しい口喧嘩で昼休みが終わった後、放課後に鹿島くんへのノルマを引っ提げて生徒会室へ向かえば、今度は生徒会室に向けて長蛇の列ができていた。鹿島くんにチョコレートあげるなんて、みんな暇だな。

 そんなところを「ちょっと失礼しますね」と彼女特権でショートカットしたものだから、睨まれるのも当然だ。でも私は鹿島くんにチョコを渡すのがノルマなんだもんね。並んで渡して握手してさよならってわけじゃないんだもんね。


「ありがとう、大事に食べるね」


 鹿島くんが知らない女子に笑顔で答えてチョコレート受け取ってるのを見て苦虫を噛み潰してるのも、鹿島くんの彼女として嫉妬してるんじゃなくて薄気味悪く思ってるだけだ。

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