第四幕、御三家の幕引
 この有様だと、私がノルマ達成するまでには暫くかかるだろう。いつも通りにせっせとコーヒーを入れ始めると、「甲斐甲斐しい彼女気取りが鬱陶しい」と言わんばかりの視線が刺さる。でも無視だ。

 が、鹿島くんの視線がちらとこちらに向いたのが見えた。なんだなんだ。


「ごめんね、彼女の機嫌悪くなってきたし、そろそろいいかな?」


 は!?──なんて叫びたくなったのを慌てて堪えた。流れを叩き切る口実に突然利用されただと。巻き込まれないように黙々と休憩の用意をしてただけですけど!

「え、でも……」

「明貴人くん、私は全然何も気にしないからそのままチョコ貰い続けてて大丈夫だよ」

「ごめんごめん、そんな拗ねないで」


 拗ねてないです!! 叫びたかったけれど、多分余計に誤解を生む。この状況に飛び込んできた私の負けだというのか……!

「というわけだから、ね? 二人にしてもらっていいかな?」

「でもここって生徒会室じゃ」

「他の役員が来るまでの間だけでも二人にしてもらいたいから」


 冗談でも寒気が走る。歯が浮くとはこのことだ、と寒いふりをしながら二の腕も摩った。鹿島くん、口を開くだけで私に嫌がらせができるってすごいな。並んでた女の子達が射殺さんばかりの視線で私のことを見てくる、そんなのはもうデフォで特筆すべきことにすらならない。

 イライラなんてしてなかったのに、女子がみんな出て行って、鹿島くんが満足気に静かな部屋を堪能する様子にイライラしてしまった。人のことを利用しといていい気なもんだな! 苛立ちに任せて、マグカップでコーヒーを飲みながら紙袋を眼前に突き出すと、不満げに偉そうに鼻を鳴らすときた。


「もう少し可愛げのある渡し方はできないのか。折角いい見本がさっきまで並んでたのに」

「あれいい見本なの? 普通に迷惑じゃない? そっかー明貴人くんはあんな風に非常識なレベルでもいいからちやほやされたいのかー」

「全部を全部真似ろなんて誰も言ってないだろ。にこにこしながら手渡すくらいしろって言ってる」

「明貴人くんに向かってにこにこなんて、嫌がらせが奏功したときでもないとできない」

「可愛げのない女だな」

「明貴人くんにそんなこと思われなくて結構です。ていうか早く箱開けて? 私も食べたいんだよね」

「挙句卑しいときた」

< 242 / 463 >

この作品をシェア

pagetop