第四幕、御三家の幕引
「あくまで明貴人くんが自主的に私に分け与えてくれることを期待しています」

「十分卑しいだろ」


 鹿島くんに渡すバレンタインの贈り物の中身なんて、一緒に選んだんだから把握してるに決まってる。それどころか、横から貰おうと思って、私が食べたいものを基準に選んだ。ただ、鹿島くんのお金だったので、極端に甘いものはダメだというのにだけは逆らえなかった。おかげで中身はサクサクパイになってしまったのだけど、それでもコーヒーのお供として私にとってはアリだ。


「ほら早く」

「御三家には渡したのか?」

「渡した。月影くんには殴られて、桐椰くんには睨まれて、松隆くんには嫌味を言われた」

「いい気味だな」

「慰謝料としてこのお菓子をいただきたいです」

「あの場でついでに御三家への贈り物を買った君の責任だろ。慰謝料も何もあるものか」


 無造作に包み紙を引き裂く鹿島くんは「で、俺のコーヒーは」と偉そうに要求してきた。松隆くんが偉そうなのは微笑ましいけど、鹿島くんが偉そうなのはその脳天から熱湯をかけたくなるくらいに腹が立つ。なんでだろうな。松隆くんが偉そうにするのは甘えてるだけって分かるけど、鹿島くんが偉そうなのは自分のことを偉いと思ってるからだからかな。きっとそうだ。


「ところで、松隆との食事はどうだった?」

「なんで今更」

「今更も何も、昨日は君が会いに来なかったんだろ。よっぽどいい話が聞けたんだろうな」


 腕を組んでにっこりと笑んでみせるその顔には、そうでなきゃ虚勢を張って生徒会室でいつも通りにふるまってたに決まってる、と書いてあった。悔しいけれどその通りだ。あの食事会で、実は本当の不倫相手は松隆くんのお父さんでした、なんて聞かされてたら学校に来れたかどうかも怪しいメンタルになってたに違いない。でも、そんなメンタルに素直に従うと鹿島くんに察されてしまうから、何でもない風を装って学校にも生徒会室にも来る、と……。

 鹿島くんのシナリオ通りに動いてしまう自分を引っ叩きたくなった。私が単純なのか鹿島くんがストーカーのプロすぎるのか……。


「……まぁ、聞けましたけど」

「どんな話だった?」

「別に、そんな明貴人くんを楽しませるような話はないですよ」

「そう。じゃあ、残念ながら松隆と君は一ミリたりとも血が繋がってないというわけだ」

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