第四幕、御三家の幕引
 腕を組んでいた鹿島くんは遂に足まで組んだ。ますます偉そうだな!

 同時に、その姿勢が、なぜか壁を作っているように見えて、口を噤んだ。

 ……鹿島くん、さっき、誤魔化した? 蝶乃さんは時間とお金のかかる彼女だってことに何も答えずに……。八橋さんのお姉さん以来他人を好きになってないのかも、気持ち悪い返答のせいで何も考えなかったけど、よく考えれば誤魔化しているようにも思える……。


「……明貴人くんはさぁ」

「今日はいつもより更によく喋るな。俺に興味でも出てきたのか」

「興味というか疑問だけあるんだけど。……明貴人くんは、幕張匠を嫌いなの?」

「君のことが嫌いなのに、なぜ幕張は嫌いではないと?」


 でも、幕張匠は鹿島くんを知りもしなかったのに?

 もやもやと、心の中に暗雲が立ち込めるような疑念が湧く。黙り込んだ私との話は終わったとばかりに、鹿島くんは机に視線を戻した。

 誤魔化されたことと誤魔化されなかったこととの違いは、分からないままだった。





 金曜日、生徒会室ではなくラウンジに行くと、月影くんが本を読んでいた。いそいそと隣に座るけど見向きもしない。さすがに読書の邪魔は気が引けるので、ごそごそと勉強道具を取り出してみる。やはり月影くんは見向きもしない。諦めて、月影くんが本を閉じるまでは勉強しておこう。

 その本を閉じるまで、というのが甘かった。月影くんは黙々と読書を続け、多分私が隣にいるのに気づいてるのに、ぴったり本を読み終わるまで文庫本の幅以上に視線を動かさなかった。お陰で一時間勉強する羽目になった。ツッキーめ!

「ねーえ、ツッキー。ツッキー、桐椰くん達と一緒に帰らないで大丈夫?」


 漸く読み終わってくれた、と袖を引っ張ると、迷惑そうな顔をされた。挙句イヤホンを外してくれないから多分聞いてくれる気がない。


「ねー、ツッキーってば」

「……何か用か」

「本当に全然聞こえてなかったの? 嘘だよね? ふりだよね?」


 コン、と月影くんの外したイヤホンがテーブルに落ちて音を立てた。今日はいつにも増して不機嫌そうなので「お腹空いてる?」とクッキーを差し出すと再びイヤホンをつけられた。


「ちょっとツッキー! 私はツッキーを心配してるのだよ!」

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