第四幕、御三家の幕引
「その時がおそらく最初だったのだろう。第六西に泊まるということは余程会いたくない人間が家に来たんだろうと思っていたが、今日も家に帰りたくないと言い出すのだからな。問題の人間が来る度に外泊したがるということは、一緒にいることに耐えられないというよりは顔を合わせたくない理由があると考えるほうが自然だ。挙句、君の口から妹の話は聞いても兄の話は聞いたことがなかったからな」

「…………」

「大方、寮住まいでほとんど帰宅しないんだろう。それが去年の十一月に一度帰ってきた、その理由は知らんが、帰るべき理由があると本人が判断したんだろう。その時に、以後帰っても問題ないと考えた、もしくは以後できるだけ実家に顔を出すべきだと判断した、したがって年末年始含め月に一度程度で帰っている。このような経緯は特に不自然とはいいがたい」

「…………」

「尤も、君が顔を合わせたくない、かつ君の実家を尋ねる人間が中々想定しづらいというのが一番の理由なので根拠はない」

「……いやツッキー怖いよ」

「何がだ」

「その推理がだよ! 大正解だよ!」


 もう自棄になってしまって、わっと顔を覆った。月影くんはなんのこっちゃと言わんばかりの怪訝な顔だが、そうだそういえば月影くんは私と兄が血を繋がってないことまでしか知らないんだ。もう誰が何をどこまで知ってるのか分からなくなってきて、素早く廊下に誰もいないことを確かめてツッキーの両腕を掴む。一瞬で迷惑な顔をされた。


「これ桐椰くんは知ってるんだけど! 私の元カレは今の……あ、兄でして!」

「君の元カレに興味はないがなぜ遼が知っているのか興味があるな」

「自棄になって暴露しました……」

「君は馬鹿なのか」

「今の馬鹿の言い方! 言い方! あ、だからとりあえずその人が帰ってくるから家に帰りたくないの!」


 (すが)りつく私に対する月影くんの目がどんどん冷たくなっていく。足にしがみつかれれば蹴り飛ばしてやったものを、とでも聞こえてきそうなくらいに冷たい。


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