第四幕、御三家の幕引
「その人はね、元々学校の寮には入ってなかったんだけど、私が引き取られるっていうから家を出て寮に入ってね、でも十一月に創立記念日の連休だからとかいって、ついでに母親の誕生日だからってことで一回帰ってきてね、その時には会わなかったんだけど修学旅行で彼方に会ってるときにうっかり遭遇しちゃって……あ、彼方とは幕張匠のときから知り合いなんだって話したことあったっけ? とりあえず以来月一で週末に帰ってるみたいな? 今回も父親の誕生日だからって帰って来るんだけど」

「情報量が無駄に多い」


 一言で切り捨てられた。酷い。確かに情報過多ではあるけど、月影くんがどこからどこまで知ってるのか忘れちゃったんだよな……。


「って、待ってよツッキー!」

「話は終わったと思ったものでな」

「終わってないよ! まだ晩ご飯の話解決してないよ!」


 問答無用でまたずんずん歩き出した月影くんの腕を掴むと、今度は振り払われた。仕方なくしょぼしょぼと後ろをついて歩く。


「だってぇー……」

「今日も第六西に泊まるつもりか?」

「んーん、さすがに明貴人くんと付き合ってるのに第六西に泊まるのはねー。それに、夕飯一緒に食べるのはちょっとって思っただけだから、家に帰るぶんにはいいよ。日曜のうちに寮に戻るだろうから、家の中ですれ違う程度しか顔合わせないだろうし」


 この話は、鹿島くんにもした記憶がある。いつだっけ。……そうだ、松隆くんのお父さんと食事をする前に話したんだ。父親の誕生日なんて覚えてなかった (もしかしたら聞いたこともなかったかもしれない)、なんでそんな急に帰って来るんだろう、と優実からのLIMEを見て思った記憶がある。

『君の兄は、君のことが大事だから君に気付いたし、君に声をかけて、兄としての挨拶までしたんだろ。呆れるどころか面倒でうざいな、君の発想』

 ……きっと、私が家に帰るくらいいいか、と思うのは、鹿島くんに散々正論で殴られたからだ。あの時はガンガン頭を殴られグサグサ胸を刺されくらいに辛い正論だったのに、今となっては、私の気分を変えてくれた言葉のきっかけ……。一番容赦ない人に一番慰められてしまったなんて、皮肉なんて一言じゃ到底言い表せない。


「でも夕飯くらい誰かと食べたいなって!」

「だからといって俺を巻き込むな」

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