第四幕、御三家の幕引
「巻き込むって言い方やめてよ。誘ってるんだよ」

「だから、彼氏と食べればいいだろう」

「もー、いいじゃん、そんなケチケチしないで私と食べてくれてもー」


 下駄箱を出た瞬間、刺すように冷たい風に襲われる。嫌だな、別に春は好きじゃないけど、こう寒いと早く暖かくなってくれないかな、と思ってしまう。マフラーに鼻から下を埋める私とは裏腹に、月影くんはそんな寒さなど感じてないかのような顔でずんずん歩く。授業が終わって随分経っているせいか、校門までにいる人は一人、二人程度だった。


「ツッキー、受験勉強だって余裕なんでしょ? 暇でしょ?」

「君に時間を遣う暇はない」

「冷たくない? 私これでもツッキーの数少ない友達の一人なんだからもっと優しくしてよ」

「君の脈絡のない話に延々と付き合う自分の優しさが怖いとさえ思えることもあるが」

「今の言い方、明貴人くんに似てる! なんかやだ!」


 というか似たようなことを言われた記憶さえある気がする。もしかして本当に私の話って延々と脈絡なく続いてるの……? そうだとしたら反省するしか……。


「分かった、そういう話しないから。晩ご飯一緒に食べよ? ね?」

「だから君に時間を遣う暇はないと言っている」

「ケチ! 大体ツッキーは──」


 それでもめげずに月影くんへの文句を連ねようとしていたとき──ぴたりと自分の足が止まった。止めたんじゃない、止まった。月影くんが怪訝な顔で振り返る。さすがの月影くんも、挙動不審な私を置き去りに帰ろうとはしなかった。


「どうした」

「ツッキー……ストップ、裏門から帰ろう」

「なぜだ」


 ほんの僅かしか見えなくても、その人だと分かってしまう自分が恨めしい。それなのに、ちらと校門の外から校舎側を見るために顔を覗かせた瞬間、自分の推測が決定的になってしまって、ドックンと心臓が跳ねあがった。

 まるで開き方を忘れたみたいに、口ががくがくと震えながら開いた。


「……校門に……」


 ぐ、と言葉に詰まった。動悸(どうき)が激しくなってきた。一瞬で口の中がカラカラに渇いた。でも続きを言わなきゃ。続きを。


「……今話題になっていた、(くだん)の……あ、兄の姿が見えるからです……」


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