第四幕、御三家の幕引
 うげー、と吐きたくなるのを必死で堪えた。先週冗談で挨拶がなんとかとか言ってたのが現実になってしまった。ていうか会議が終わったなら桐椰くんが来てくれたらよくない? こういうときこそ出番じゃないの? 何やってるの桐椰くん!

「……彼氏?」


 ていうか、今この人の中で私の彼氏は彼方なんだった……。しまった……。


「あ、修学旅行で会ったのは僕の知り合いです。修学旅行先が別だったので、悪い虫がつかないように頼んでて」


 くそっ、日頃から息をするように嘘をついてるだけある、言い訳の流れがあまりに自然!

「……そうですか。すいません、いつも妹がお世話になってます」

「こちらこそ」


 本当に彼氏が挨拶してるみたいで気分が悪くなってきた。しかもマフラーを掴まれて捕獲されてる状態に等しい。なんだこれ。


「……妹と帰ろうと思って迎えに来たんですが、すいません、ちょっと喧嘩をしていて」

「ああ、聞いてますよ。本当は早く仲直りしたいみたいなんですけどね、彼女も」


 いやいやいややいや待ってよ待って。鹿島くん待ってよ! 私そんなこと言ってないじゃん! ていうか喧嘩も何もないんだから! 慌てて鹿島くんに向かってぶんぶん首を横に振るけど、鹿島くんは無視。


「ほら、そういうことなら早く帰りなよ」

「あ、明貴人くん家まで送ってくれないかな!」

「ごめんね、生徒会の仕事がまだ残ってるから」

「会議さっき終わったって言ったじゃん!」

「雑用はいくらでもあるんだよ」

「それつまり今日じゃなくてもいいんだよね!?」


 ぱっ、と手を離されて、慌ててマフラーを整える。漸く正面に向き直った鹿島くんは、マフラーどころかコートすら着ていなかった。

 なぜ、鹿島くんは、このタイミングで現れたんだ?

「……あの」

「折角迎えに来てくれたんだから帰ればいい。別に、とって食われるわけじゃあるまいし」


 肩を竦めてみせる鹿島くんに、いつもと違う様子はない。でも違和感を抱いているのは月影くんも同じ。

 まるで、私の兄がいるのを見つけて、慌てて飛び出してきたみたいな──。


「ま、とりあえず今俺が言いたいことは、月影と浮気しちゃだめだよってことかな」

「してま──」

「願い下げだ」

「なんでツッキーが言うの!」


< 256 / 463 >

この作品をシェア

pagetop