第四幕、御三家の幕引
 キン、と冷えた声に、自分でも驚いた。こんな言い方、ここ最近したことなんてなかったのに。でも謝って言い直す気は起きなかった。それに、彼は驚いた顔はしなかった。


「……ずっと、話したかったんだけど」

「何を」


 自分でもびっくりするくらい、態度が悪い。桐椰くんにもこんな八つ当たりしたことないのにな。鹿島くんにだって、こんなわざとらしいくらい酷い言い方はしない。


「……何をってわけじゃないけど、だって、亜季が家に来てから、一緒に話せたことなんてなかっただろ?」

「だって、話すことなんてないじゃん」

「……だからって、ずっとこのままってわけにはいかないだろ」

「大丈夫だよ、私、高校卒業したら家出るし、もう戻らないし。お水とってくる」


 何か言いかけたのは分かったけど、小休止のために席を立った。お水が欲しかったのは本当だ、ちょっと喋っただけなのに声がガサガサに渇いてしまったから。ドリンクバーコーナーでお水を汲みながら、二人分持って帰るべきか悩んでしまって、その悩みを言い訳に少し時間を潰した。

 席に戻っても、まだ料理はない。早く帰らせてくれないかなと思うのに、残念ながら店内は混みあっている。この調子ではまだまだ料理は運ばれてきそうにない。


「……ありがとう」


 コトン、とお水のコップを机に置いた。結局二人分持ってきてしまった。


「……亜季、彼氏できたんだな」


 そのセリフで、初めて彼を見た。彼の目はまっすぐ私を見ていて、視線を逸らしてなんかいなかった。


「安心したよ。……よかったな」


 ほんの少し見せた躊躇いが、嘘を吐くためのものじゃないことくらいすぐに分かった。私は唇を強く引き結んだままなのに、彼はセリフ通りの表情をしている。


「大阪で見た、彼氏って言ってた人は、少し……なんていうか、明るすぎるというか、ちょっと違うのかなと思ってたんだけど、さっき会った……鹿島くんは、優しそうだし落ち着いてるし、安心した」


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