第四幕、御三家の幕引
 孝実の眉は細くてなだらか、誰に似たのかは知らない。頬骨が少し出ている。きっと父親似だ。唇は薄いというよりは厚い。母親似だと思う。人の好さそうな笑い方は父親似だ。体格はきっと母親似。あとは知らない。多分私の知らない人だとか、その人たちの遺伝子の組み合わせだろう。

 そして、その目は、まるで自分の目を見つめるように、よく似ている。少し存在感のない睫毛。涙袋もあんまり存在感がない。二重で、笑うと半月型になる。こんなものは、きっとどれもこれも取り留めのない特徴で、せいぜい美形ではないらしい程度のものでしかない。

 それなのに、きっと、私達の写真を撮って、切り取って入れ替えても、誰も気づかない。流行の加工アプリを使っても、きっと分からない。私と優実だってそう。

 そんなことに、あの時気付いていれば、こんなことにはならなかったのに。

 気づけないのなら、あんなに何度も、会わなければよかったのに。


「……ただの、引き取られた先の同い年の男の子くらいでよかった、孝実は。こんな風に関わりたくなかった」

「……俺と付き合ったこと、後悔してるの」

「……してるよ」


 ……そう答えたけど、本当は、後悔しているのか分からない。なんなら、後悔なんてないとはっきり思っているときさえあった。だって、あのどうしようもなく途方に暮れてた時に孝実が助けてくれたのは本当だから。孝実が何も悪くなかったことも分かってるから。孝実と付き合って幸せだった時もあったから。

 それでも、今、胸を抉られるような痛みを経験させられている今は、付き合わなければよかったのにと思ってしまうんだ。こんな痛み、知りたくなかったから。知って得するものでもないから。


「……そっか」

「……だから、今日だって、こんなことしなくてよかった」

「……もし、俺と付き合ってることを後悔してるなら」


 孝実の口に繰り返されて、はっと我に返る。何を言ったんだろう、私は。何を言ってしまったんだろう。

 私は、彼を傷つけたかったわけじゃないのに。


「謝ろうと、思ってた。……いや、後悔してるとかしてないとかじゃなくて、そんなこと関係なくて──、謝りたかった」


 掠れた、苦しそうな声と、泣き出しそうな表情は、きっと、心苦しいからじゃない。私が今、傷つけたせいだ。


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