第四幕、御三家の幕引
「……高校生のくせにタクシーとか、さすが成金は違いますね」

「あぁ、くそ寒いな。ジャケットを忘れたのが痛かった」

「話聞いてる?」


 コートのポケットに手を突っ込みながら、鹿島くんは走り去るタクシーを見送った。その下にはジャケットを着ていないらしいけど、そんなことに興味はなかった。ただ、立ちはだかるように私の目の前に立つ鹿島くんが憎たらしいだけだ。


「で、兄との話はどうだった?」

「……なにそれ、まさか月曜日の報告が待ちきれなくて聞きに来たの」

「そんなところだな」

「どうせなら桐椰くん連れてきてよ。桐椰くんも会議で一緒だったんでしょ」

「とっくに下校時間なんて過ぎてる。生徒会長として雑務を終わらせてただけだよ」

「そもそも孝実が来たときに明貴人くんが出てくるの空気読めてなさすぎでしょ。ああいうときは颯爽とヒーローが登場してくれるんじゃないの」

「さあ、そうだとしたら桐椰がヒーローじゃないんじゃないか? ま、月影から話がいって、月曜日には桐椰も知ってるだろうよ」


 打てば響くような、ノーガードの私達の殴り合いと探り合い。


「……なんで、桐椰くんに言えないんだろう」


 それが、止まる。


「……なんで、孝実とのこと、ちゃんと桐椰くんに言えないんだろう」

「さあ。桐椰が優しく同情してくれるのが分かってるからじゃないか?」

「……私が欲しいのは同情じゃない」

「じゃあ何が欲しい」

「……分からない」


 孝実に謝られたいわけでも、桐椰くんに可哀想がられたいわけでもなかった。ついでに言えば、桐椰くんに「知るかよ、バァカ」なんて一蹴されたいわけでもなかった。

 自分が我儘なことは分かる。だからそれを解消したいのに、その解消の仕方が見つからない。そんなもどかしさに、ずっと囚われている。


「……ていうか、なんで明貴人くん来たの?」

「君に死なれちゃ困ると思ったからさ」


 さらりと告げられた一言に、思わず言葉を失った。それはヒーローの決め台詞でもなんでもない。同時に、悪役のセリフでもあるはずなのに、なぜか悪意特有の恐怖を感じない。

 鹿島くんは、コンビニの駐車場と歩道を仕切る鎖に、器用に体を預ける。


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