第四幕、御三家の幕引
「君には、まだ利用価値がある。それなのに元カレと話すのが辛すぎて死にます、なんてことになってもらっちゃ困る。だから来た。何度もLIMEもしたんだけどな」

「あ、通知切ってるので気づきませんでした」

「だろうね」


 私の、利用価値──。御三家との関係で、私がまだ利用できるという、その罠。今すぐ深古都さんに催促の電話を入れたくなるくらいには、その罠は怖い。だってわざわざタクシーで私を迎えにくるくらい、私がその罠に大事だというんだから。その罠にかかるのは、私じゃなくて御三家だというのだから。


「……お生憎、人に迷惑かかる今はまだ死ぬ気はないです」

「それは残念」

「……本当に、どうしてだろう」


 桐椰くんにも、こうして簡単に、言えればいいのに。死にたいって。急に原因不明の心臓発作にかかって死にたいって。道端でぱたりと、誰にも迷惑をかけずに死にたいって、言えればいいのに。

 それなのに、桐椰くんは絶対に悲しんでくれるから、言えない。それだけじゃない。御三家といると、死にたくなくなる。御三家といると、私は、この人達とずっと一緒に笑ってたいと、そういう馬鹿げたことを思ってしまう。


「……どうして、明貴人くんだけなのかな」

「なんだ、口説いてるのか。奏功しないぞ」

「……私は結局、優しい人が、理解できないのかな」


 蝶乃さんが桐椰くんの優しさを偽善だと嘲笑ったように、私は、誰かの優しさを、よくて同情としか、悪くて無関心としか、捉えられないのかな。

 そうだとしたら、私は何も変われないことになってしまうのに。

 ぽつりと呟いて黙り込んだ私に、鹿島くんは呆れ顔で溜息までついた。本当に何しに来たんだ、この人。


「……悲劇のヒロイン気取りのポエムは元カノに散々聞かされて飽きてるんでね」


 よりによって蝶乃さんと一緒にされた。今世紀最大の不本意まである。

 むっと顔をしかめていると、鹿島くんはおもむろに私の正面に再び立った。怪訝な顔をしていると、一歩近づかれる。思わず半歩下がると、更に一歩近づかれた。


「な、なに。キスされたら痴漢って叫ぶ」

「俺のキスもそんなに安くない、調子に乗るな」

「散々してきた痴漢が何を……」

「優しい味方の好意が理解できないなら、残酷な敵の悪意に乗っかってみたら?」


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