第四幕、御三家の幕引
 謎かけのような不意の提案に、益々眉を顰める羽目になる。ついで、「ほら」と手を広げられて、……ややあってその意図を理解し、もういい加減、意味が分からなくなってきた。

 でも、多分、それは私が求めてることに近い気がした。死ぬほど(しゃく)というか、なんでこんな人にこんなことをと、自分でも思うし、というか自分のことを口汚く罵りたくさえなるのに──散々見つけられなかった答えが、そこにある気がした。


「……あのさぁ」

「なんだ? 貸してほしいんだろ?」


 ふ、と私を見下して嗤うその顔には、恋も愛も欠片もないのに、私が求めているものは、そんなものじゃなかったとでもいうのだろうか。


「……明貴人くんはさぁ」


 会話で時間稼ぎでもするように、ゆっくりと間を置きながら喋って、おそるおそる、近づいた。近づくにつれて、恋ではない、でも確かに平常とは違う感情に支配された心臓が脈打っているのが聞こえる。

 ゆっくりと手を伸ばして、背中に手を回した。私の背中にも手が回された。


「……私のこと、好きなの?」

「なんとなくそう聞かれる気はしてたが、こういう時だけ自意識過剰なのはやめろ。君のことは利用価値以外は好きじゃない」


 だったら、なんで、私を抱きしめる腕が、こんなに優しい。


「……じゃあなにこれ」

「泣くために胸を貸してほしいって言っただろ」

「言ってませんけど、幻聴じゃないですか」

「顔に書いてあった」

「……じゃあ鼻水がついてもクリーニング代請求しないでよ」

「それは別料金に決まってるだろ」


 私は、鹿島くんに抱きしめられたかったのか、誰でもいいから抱きしめられたかったのか──もう、何も分からなくなった。

 まるで恋人のように、抱きしめられて、その胸に顔を埋める──一体、何をしてるんだと、私の中で私が悲鳴を上げている。鹿島くんに抱きしめられに行くとか、自殺よりたちが悪い。そう叫んでいる。

 透冶くんを殺した。雁屋さんを追いつめた。月影くんを罠にはめて傷つけた。透冶くんの事件を餌に桐椰くんを傷つけた。雁屋さんの事件を餌に鳥澤くんを利用した。次は松隆くんを傷つけようとしている。

 そして、きっと、私は御三家を傷つけるために利用される。最後の、松隆くんへの切り札として。

 ──本当に?

< 268 / 463 >

この作品をシェア

pagetop