第四幕、御三家の幕引
『他人から向けられる感情の本当を知りたかった。好きだという、軽々しい二文字の本当がどこにあるのか、知りたかった。俺を好きだと言うその言葉の意味を知りたかった。ただそんなことのために、手を出した』

 噂の裏付けが何を意味するのか気付いた瞬間、顔が強張るのを感じた。次の瞬間には、思わず視線を素早く巡らせて、周囲に御三家がいないか確認していた。御三家は少し離れたコーナーにいるからこの会話を聞くことはない。それでも安心なんて感情が欠片も湧かないのは、続く過去を知りたくないからだ。


「……月影くんね。あたしにキスしようとして、やめたの。その後に、『君とする気にはならんな』なんて、ちょっと嗤って」


 ……どうして。


「……月影くんね、それっきり遊ぶのやめたんだ。多分、あたしみたいな人が出てきたら困るって気付いたんだと思う」


 恋愛対象に見ることのできない子が、噂通りのルールに則ってきたら困るから。そう、ふーちゃんは言いたいんだろう。

 荒み切っていた月影くんの心は、きっとそこで擦り切れた。


「だから、そのとき分かったんだよね。あー、あたしって月影くんにとってそういう対象にならないんだなぁって」


 ぼそぼそと、独白のような告白をした後、ふーちゃんは徐に顔を上げてにこっと微笑みを向けた。


「だからあたし、両片想いってヤなんだよねー! しかもお互い気付くの待ってる切ない系じゃなくて報われない系の、ムリムリ!」


 声も一変して明るくなって、マンボウを抱えて歩き出す。


「亜季は鹿島くんが好きっていうけど、どー見ても桐椰くんと両想いだもんー。それでもって、鹿島くんなんて御三家の敵だよ、敵」


 まぁロミジュリもいいけどさ、なんてふーちゃんらしい感想を挟み、企むような笑みを浮かべる。


「仲良い感じがあるどころか、降って湧いたみたいな謎カップルだし。桐椰くんみたいな近さもないし、鹿島くんの隣にいる亜季は桐椰くんの隣とは別の意味で落ち着きすぎて別人みたいで気持ち悪いし。ここまでくると疑っちゃうよね」


 レジでマンボウのぬいぐるみとお財布を出した後、その人差し指がびしっと私の鼻先に突き付けられた。


「生徒会と取引するなら、あたしがちゃーんと役に立つからね。両想いハッピーエンドのためにいつでもあたしを使ってねー」


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