第四幕、御三家の幕引
ひらひらと、深古都さんはマル秘冊子の入ったクリアファイルを振って見せる。
「とにかく、こちらをお渡しするのはお仕事を無事に遂行してからだということをお忘れなく」
「……あの、深古都さん、もう一度言わせてもらっていいですか? 松隆くんは彼方の弟の桐椰くんと違って……」
「困難であることは不可能であることとは別です」
ピシャリと厳しく冷たく言い放たれ、思わず姿勢を正して縮み上がってしまった。数カ月前に見た深古都さんの竹刀を思い出した上に、深古都さんのその冷ややかな表情に、脳裏には長ラン姿で番長をはっている深古都さんの姿が浮かんでしまった……。いや、実際どうだったのかは全く知らないけれど、この人に舌打ち混じりで地面を竹刀で叩かれようものならどんな不良も蜘蛛の子を散らすように逃げ出す気がした。気がしただけだけど。
「……あの、えっと……では、その……知恵を、いただけないですか……」
「ほう。あの阿呆は馬鹿なりに知恵だけはありましたが、桜坂様にはないと」
「なんか今日厳しくないですか? 前回そこまで酷くなかったですよね!? 本当に一体何があったっていうんですか!」
くわっと食って掛かるけど、深古都さんは素知らぬ顔でブラックコーヒーを飲む。私への雑な扱いといい、私の感情を全く意に介さない様子といい、月影くんの分身みたいだ。
「この私に調査を依頼し、実際に遂行させておきながら、今更になって条件を呑めないとは、三流の悪役でも今時口にしないほど愚かですよ」
「……深古都さんって口調は丁寧でも台詞自体はキツイですよね」
「さて、余談はどうでもいいので、手早く行動に移していただきましょうか」
「いやだから何をどう……」
「次回の松隆様とお嬢様の会食はこちらですので」
サッとタブレットを差し出されたかと思えば、高級ホテルのレストランのホームページが表示されていた。なんだなんだ、高校生のお見合いなのにこんなところでご飯を食べるのか! 私も肖りたい! ……いや、この間の松隆くんのお父さんとの食事も一生行かないくらい高級だったけど、あれは食事が喉を通らなかったからな……。
「えーっと……でも、あの、これ、公共の場ですよね? どうやって誘惑すればいいっていうんですか?」
「それを考えるのがあなたの役目では?」