第四幕、御三家の幕引
 馬鹿ですか? と言いたげな蔑みの目を向けられた。いや無茶ですよねだいぶ!

「えっと……あ、服? 服を変えればいいですか?」

「露出を高くすればいいという安直な発想、愚かとの評価の域を脱せませんね」

「深古都さんと月影くんって親戚かなにかですか?」

「は?」

「いえなんでも……」

「とはいえ、今日の服装はよくお似合いだと思いますよ。可愛らしく、それでいて清楚で、品のある恰好です」


 その誉め言葉に素直に喜ぶことができなかったのは、何を隠そう、私の今日の服装が鹿島くんの選んだ服だからだ。私にぴったり似合ってる上に年上男性からの評価も高いなんて、今日も鹿島くんの気味の悪さが増していく。

 ……でも、あのクソ生徒会長、と心で罵ることはできない。


「……あの、これは全然関係ない雑談なのですが」

「手短にお願いします」

「……深古都さんがふーちゃんを抱きしめるとかって……あります?」

「そのような寝言、永眠中でも許されないかと」

「いや真面目な相談なんですよ! 別に深古都さんとふーちゃんの関係を邪推はしてないんですけど!」


 とっくに氷点下を過ぎた温度まで下がっている深古都さんの目に、自分が狼狽えるのを感じる。


「ただのたとえ話なので! あ、じゃあふーちゃんじゃなくてもいいです! 深古都さんが好きでもない子を抱きしめることってあるのかなと!」

「ありませんね」

「……すいません」


 予想通りの答えだった、というよりは、分かりきった答えの質問をした私の愚かさに呆れた深古都さんの目に反省した。どこかの月影くんと同じで、深古都さんも目が雄弁なタイプだ。


「恋愛相談なら私ではなく他をあたってください。あの阿呆にしてもお嬢様にしても、脳内花畑ですので相手にならないことは自明ですが」

「……恋愛相談というか、男性心理というか」

「どうでしょうね。男性の深層心理は大体の場合、あの阿呆と一致しますから」


 つまりどういうことだ、と首を傾げてみせると「大体の男は阿呆だということですよ、私然り」と深古都さんは眉間に皺を寄せながら答えた。


「ですから、思いがけない相手に抱きしめられたというのなら、その相手が桜坂様のことを何らか気にかけ始めてしまったということではないですか」

< 273 / 463 >

この作品をシェア

pagetop