第四幕、御三家の幕引
「……でも、なんかこう、条件反射とかじゃなかったんですよ……。その、思わず抱きしめてしまったとかじゃなくて、抱きしめてほしいんだろ、来いよ、みたいな……うわ、言ってて鳥肌立ってきた」

「それで抱きしめられる貴女の心情は少なくとも自明ですね」

「別に鹿島くんのこと好きじゃないですけど!!」


 思わず大声で叫んでしまい、一瞬で視線が集まったのを感じた。はっと我に返って俯くも、周囲の席にいる人は、なんだなんだ、と顔を見合わせたり私を見たりしている。……が、そんなことはどうでもいい。


「はぁ、鹿島様と……。どういうことか、お聞きしてもよろしいですかね」

「……いや、話すほどのことでは……」

「私が調べた事項に多くのことが関連しているので、概ね想定できなくはないですがね」

「……やっぱり深古都さんって月影くんの親戚か何かですか」

「大抵の人間には分かると思いますが」


 私に関する情報を分析し総合し解を弾き出されることにデジャヴしかない。少なくとも、深古都さんは敵に回してはいけないことは分かる。だったらバレるよりバラすほうがいい。


「……もう分かったと思うんですが、私と鹿島くんは形の上だけで付き合ってて」

「そんなに簡単に自白してしまって、貴女は本当に……馬鹿、なんですかね」


 騙された!! 思わずテーブルの上で拳を握りしめた。深古都さん、そこまで気付いてなかったのに私に鎌ををかけたのか……! 言葉を選びようもないほど、溜息と共に吐き出された“馬鹿”呼ばわりに、こればっかりはぐうの音もでない。


「……深古都さん」

「なんでしょう」

「……少しは私を助けてください」

「私はお嬢様以外の味方ではありませんから」

「……切羽詰まり過ぎてツッコミも入れられないです」


 別の場面で聞けたら、トキメキのひとつでも覚えたかもしれないのに。この場面ではその厳格すぎる主従関係が恨めしい。


「……なんで、鹿島くんは私と付き合ってるんでしょうか……」

「鹿島様にお訊ねすればよろしいかと」

「……聞いて答えてもらえるなら苦労しません」

「そういう相手にはある程度手札を持たなければ戦えませんよ」

「手札……」


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