第四幕、御三家の幕引
 鹿島くん相手に持ってる手札なんて、八橋さんのお姉さんのことだけだけど……。彼女が鹿島くんは、その人が好きだったことしか分からないし、なんなら鹿島くんはそれを隠すつもりもなさそうだし、到底手札になんてなりえない。切り札なんてもってのほかだ。


「手札が……ない……」

「そのためにこの身辺調査でしょう? この情報からどこまで真実に辿り着けるのかは、まぁ、貴女の技量次第ですね」


 コンコン、と深古都さんは手のひらを上に向けた状態で、指の関節でファイルを叩いてみせた。この人、何やっても決まるな。ふーちゃん、こんな人が小さい頃からいて、よくB専とか言えたな。

 なんてことはどうでもいい。気を取り直して姿勢を正す。


「……じゃあ、その、私は、松隆くんを……誘惑……すればいいと……」

「上手くいくんじゃないですか? 松隆様、桜坂様がお好きなんでしょう?」

「…………もう私は深古都さんが何を知ってても動じませんから」


 言いながら、動揺して顔面を両手で覆わずにはいられなかった。なに、身辺調査ってすればそんなことまで分かるの? 何なの?

「これはあの阿呆から聞いたことですので、私の情報網を恐ろしく思う必要はありません」

「いや十分怖いんですけど。ていうか、彼方はなんでそんなことを知ってるんですか?」

「あの阿呆の弟がなんでも顔に意思表示をするからではないでしょうか」

「桐椰くんの馬鹿……!」


 どうせあれだ、彼方が桐椰くんを私のことで揶揄ったんだ。それでもって、松隆くんの名前を出して「総くんにとられちゃうよー」とか言って遊んだんだ。桐椰くんの顔に「とられる気しかしない」とか出たんだ。きっとそうだ。……多分事実そうだとは思うけど、なんだか私がすごく自意識過剰にしか思えないな。


「口の軽い友人と、顔に出やすい友人の扱いには気を付けましょうね」

「……深古都さんの言葉は学びが多いですね」

「伊達に年上ではありませんから。さて、桜坂様」


 深古都さんの表情が動くのを初めて見た──といっても、その口角が不気味に吊り上がっただけだけれど。


「いい加減、ご理解いただけたでしょうか? 当日は決行していただきますので、私の指定する場所に指定する服装でおいでください」


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