第四幕、御三家の幕引
 ……どうやら、私は、自分で自分の首を絞めているらしい。ぐぬぬぬぬ、と唇を強く引き結んだ。


「……分かりました。……本当に、一から十まで全部私が考えて決行するんですよね……?」

「必要とあらば然るべき手助けはしますが。ただ、目的は破談に持ち込むことですから、松隆様の女性遊びの写真が一枚あればそれで解決もします」

「深古都さんは松隆くんを陥れたいんですか?」

「まさか。これで松隆様もお嬢様も得しかしないというだけですよ」


 いや、松隆くんは何か大事なものを失ってしまう気がするけど……。なんだかんだいって深古都さん、ふーちゃんのほうが大事なんだな。やろうと思えばふーちゃんの危ない趣味でもバラせば深窓の姫君の名に相応しくないって破談にできそうなのに。

 ……なんであの二人、揃って他人に言えない黒歴史と趣味があるんだろう。逆にお似合いな気がしてきた。


「えーと……それで、この、ホテルで……何するんですか二人とも。まさかご両親も揃ってるところでお喋り……!?」

「そのまさかですね。旦那様と松隆様のお父様がいらっしゃると聞いておりますが」

「それまさか、松隆くんのお父さんの前で私が泥棒猫を演じるってことですか!?」

「年齢を疑いたくなる言葉選びですが、そういうことですね。何か問題でも?」

「問題しかないですよ!」


 だって松隆くんのお父さんと面識あるもん! いや、面識がなくても人様の両親が揃った目の前でそんなことをさせられては堪らないけど。


「ご安心ください、お見合いには必ず紋切り型の場面転換台詞があります。『あとは若い者同士で』と」


 紋切り型なんて口語で初めて聞いた。やっぱり深古都さんは月影くんの親戚か何かなのだろうか。


「その後であれば桜坂様が醜態を直接晒す相手は松隆様とお嬢様だけになります」

「待ってください、醜態である前提にツッコませてください。というか、直接って何ですか」

「もちろん、直後にお嬢様が旦那様に松隆様が移り気であったという具体的なエピソードを伝えることにはなりますので」

「それ結局私は各方面に醜態晒してますよね!?」

「そう慌てないでください。もっと柔軟に考えていいんですよ」


 柔軟もなにもない。何をどうやったって私が黒歴史を生成する未来しか見えない。


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