第四幕、御三家の幕引
「松隆様がお嬢様というものがありながら他の女性に(うつつ)を抜かしてさえいれば足りるのですから」

「作戦だとしても酷いいわれようですね、松隆くん」


 深古都さんが松隆くんのことを浮気性と思っているかのようだ。でも松隆くんのお父さんも、松隆くんが私なんかに現を抜かすなんて思わないだろうけどな……。……それどころか、あの松隆くんのお父さんの様子だと「本命? だったらもうフラれたんだろう? 諦めような」なんて言ってしまいそうだ。代々本命に好かれない松隆家の遺伝子、おそるべし。

 なんて妄想してる場合じゃあない。私は遂に額を押さえてしまった。


「……えっと、じゃあ、あの、頑張って……松隆くんの気を引こうと……思うんですけど……あの、お見合いの日、せめてその場についてきてほしいなー、なんて……」

「私が行くと目立つでしょう」

「よく分かっていらっしゃいますね。既に私はいたたまれませんよ」


 こんな異常に姿勢のいい美形が目立たないわけがない。スーツを着ているときよりも、今日みたいに私服のほうが若くは見えるけど、ただの大学生には見えない。これがあの彼方と同い年なんて……信じられない。


「じゃあ誰を連れていけというんですか!」

「鹿島様でいいのではないでしょうか」

「なんで現状の彼氏を連れて別の男を誘惑するんですか! 深古都さん今適当に言いましたよね!」

「そうですね。鹿島様を連れていくのは話がややこしくなりますので、私が行くのが一番いいのでしょうね。あとは松隆様をどう(たら)し込めるかですが……」

「その場でいきなり誑し込むって無理ですよね? いっそのことふーちゃんと松隆くんがお見合いしてるときに突然出てきて『私と付き合ってくれるんじゃなかったの!』って言いながら松隆くんに水でもかければ……」

「いいですね、それでいきましょうか」

「嫌ですよ! 冗談に決まってるじゃないですか! 松隆くんにそんなことしたら地の果てまで追いかけられて呪い殺されますよ! 末代まで日本の地を踏むことが許されないレベルに追放とかされますよ!」


 ふむ、と深古都さんは顎に手を当てて考え込んだ。もしかしてさっきの案を本気で実行するつもりだったのだろうか。


「まぁ……お見合いの日までは少し日数がありますしね。それまでに多少はマシな案を考えておいてください」

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