第四幕、御三家の幕引
 思いがけない味方宣言は、心を震わせるのに十分だった。お陰で言葉が閊えて、出そうとした声も震えてしまうのを感じる。

 何も言えずにいる私に、ふーちゃんは優しく微笑んだ。 

「対価は御三家のヌードでいいよ」

「……それはちょっと難しいかな」


 度重なる残念な発言。思わず笑ってしまった。その真意は、もしかしたら欲望半分計算半分で、真面目な彼女の台詞を誤魔化すことにあるのかもしれない。

 結局、御三家は可愛らしいグッズを買ってご満悦。駅まで歩く間、桐椰くんの手に握られた水族館の袋は楽しげにゆらゆら揺れていた。電車に乗れば、今度は松隆くんと月影くんがカワウソとペンギンの話で盛り上がる。正直、月影くんの頬があそこまで緩む瞬間があるなんて思ってもみなかったせいで目を疑った。


「御三家って萌え系だよねー」

「次はなんだよ!」


 本町で電車を降りるとき、ふーちゃんがそうコメントすれば、妄想を警戒した桐椰くんが怯えた声を上げた。たった半日で桐椰くんに恐怖心を植え付けるとは、さすがふーちゃん。


「結局どうする? 心斎橋まで歩くの?」

「歩けばいんじゃね、十分(じゅっぷん)くらいだろ」


 さすがの桐椰くんも徒歩ルートまでは把握していないのか、改札を出た後にスマホを開く。それを横から覗き込むと、確かにマップアプリも心斎橋までは十数分と告げていた。


「桐椰くん、本当に大阪詳しいね」

「言っただろ、兄貴のとこによく行ってるって。行くところ決まってるからな……」


 本町はビジネス街らしく、大阪駅周辺とは人の数と層が少し違った。辺りを見回す私の隣で、桐椰くんは地図を松隆くんに見せて「こっち真っ直ぐ」「暫く景色つまんなそうだね」と互いに移動を急かす。


「おい行くぞ」

「はーい」


 気付けば松隆くんと月影くんとふーちゃんが三人並んで話していて、私と桐椰くんが先陣を切って歩いてしまっていた。ふーちゃんと月影くんだけでも謎なのに、そこに松隆くんが入ったらいよいよ意味が分からないけど、並んるということはちゃんと話せてるんだろう。


「ね、桐椰くんのお兄さんが住んでるのはどこ?」

石橋(いしばし)ってとこ。梅田からだと本町とは真逆方向」

「遠いの?」

「いや、梅田から二十分くらい」

「じゃあお泊り便利だね」

< 28 / 463 >

この作品をシェア

pagetop