第四幕、御三家の幕引
 確かに、よっぽどのことがないとペンを握れないほど殴る蹴るなんて有り得ないな……。しかも受験生だし、公立の受験があるって分かってたんじゃ……。いや、でもこの時期の予備校帰りは国公立の受験を控えてるに決まってる。そこはただの偶然だろうか。


「でしょ。だから俺も情報収集したんだけど」

「なんかわかったのか?」

「これは考えすぎかもしれないけど、お前と背格好が近い」


 それが意味することに、桐椰くんの横顔は一瞬で険しくなる。松隆くんはスマホを見せてくれた。どうやらその半田先輩の写真を貰ってきたらしく「この真ん中ね」と五人組のうち一人を指さした。それだけじゃ分からなかったけど、スワイプされて見せられた写真は教室の机に座っているもので、確かに顔を隠されると桐椰くんと似たようなシルエットだった。


「ついでに、半田先輩は俺達と同じ予備校に行ってたらしいよ」

「……俺と間違えて襲われた可能性は」

「高いよね、それなりに」

「え、じゃあ、自分たちが襲ったのが桐椰くんじゃないって分かったら、桐椰くんが襲われるってこと?」

「そういうこと。ま、そんなに心配することはないと思うんだけどね。当然、半田先輩は喧嘩慣れしてた人じゃないわけだし、半田先輩が大怪我したから遼もそうなるとは言えない。少なくとも俺もいれば余裕で潰せるし」


 王子様の笑顔が怖い。その殺意は私に向けられたものではないのに、思わず背筋が震えてしまった。桐椰くんと間違えて襲ったって、そもそもよく桐椰くんを襲おうと思ったな! 桐椰くんも怖いけど、松隆くんの親友だって思うと余計に怖いよ!

「お前がいるっていっても、行くときだけだろ? 帰りは別じゃねーか、現にお前は襲われたわけだし」

「あれは油断してたから。次来たらやれるから」


 やれるってなに? 殺すの? 今更だけど、松隆くんって育ちがいいのにそんなに育ちのよさそうな罵り方しないよね。口汚いとまではいわないけど。


「そうやって負け惜しみするから怪我するんだろ」

「してない」

「つか、お前は送迎つけてもらえば?」

「そういう話はあったんだけど、そこまで拘束されたくない」

「我儘だなお前」


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