第四幕、御三家の幕引
 全くだ。松隆くんは「でも弓親さんに防犯ブザー持たされた」とポケットからヒヨコのキーホルダーを取り出した。「随分可愛らしいもん持ってんなお前」という桐椰くんの感想には激しく同意する。ちなみに、(くちばし)に何か咥えているので、それを抜くらしい。


「なんでヒヨコなの?」

「知らないよ、弓親さんに聞いてよ」

「あ、もしかして第六西にあったヒヨコのパンツって松隆くんの!?」


 記憶の中にあるPIYOPIYOのパンツと松隆くんが繋がってしまって、はっと叫ぶと、廊下の視線が一斉に向くと同時に松隆くんの手に電光石火の速さで口を塞がれた。塞ぐというか、頬ごと掴まれた。その目に宿る殺意といい、このまま顎を握りつぶされるのでは!?

「んんん!」

「それは駿哉のだよ。迷惑な勘違いはやめてくれるかな」


 月影くんなの!? それもそれで驚きだけどな! 因みにその弁解は普段よりも気持ち大きな声だったので、聞いた人達が「あ、よかった、びっくりした……」と松隆くんのイメージが壊れずに済んだことへの安堵を漏らしていた。


「お前……なんで俺達の下着とか漁ってんだよ」

「んんん!」

「桜坂、桜坂が同じことされたら嫌でしょ? やめようね?」

「んー!!」


 下着を漁ったわけではないし、私と御三家が逆になるのは意味が違ってくる、と反論したいのに松隆くんの冷ややかな目と力強い手がそれを許さない。ごめんなさいと謝りたくてもできないので、必死に首を小刻みに上下させると、やっと手を放してもらえた。


「やだ……リーダー怖い……やだ……」

「お前が総のいじり方間違えてんだよ」

「いじろうとしたんじゃないもん……思わず気づいちゃっただけだもん……」

「お陰で駿哉のプライバシーが晒されちゃったじゃん」

「晒したの松隆くんだったよね?」

「俺がヒヨコのパンツ履いてると思われたくないから、仕方ない犠牲」

「最低だよ松隆くん」

「誰のせいかな?」

「すみません」

「ま、駿哉は多分気にしねーだろ。元々アイツが第六西泊まることねーから、使ってない新品持ってきて置いてる、ってだけだし」


 それはもう少し大きい声で言ってあげたほうがいいんじゃないかな、桐椰くん。いくら月影くんが気にしないとはいえ。


「ま、そういうわけだから、帰り道は気を付けなよ」

「ああ」

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