第四幕、御三家の幕引
「桜坂も」


 桐椰くんだけだと思ったのに、七組に帰ろうとした松隆くんが振り返り、少し伏し目がちに私を見た。


「俺達と──……の、関係者だと思われると、危ないかもね。気を付けてね」


 御三家と、幕張匠か……。夏に雅と一緒に襲われた時の二の舞になる可能性がある。あれは藤木さんが言い出しっぺとはいえ、鶴羽樹も噛んでたんだよな……。鶴羽樹が読めないことには対策もしようがない──と思うとやっぱり深古都さんが持ってる鶴羽樹の情報が欲しい! ぐあっ、と文字通り頭を抱えていると隣から冷たい視線を感じた。桐椰くんの顔には「お前って時々奇行に走るよな」と書いてある。


「……桐椰くんさぁ」

「なんだよ」

「……松隆くんの……」

「うん」

「……弱味とか、知ってる?」

「なんだよ急に。アイツいじるのはやめとけって言ってるだろ。拗ねると面倒臭いぞ」

「いじりじゃなくて、こう、リアルに?」

「虐めるのもやめとけよ」

「そうじゃなくてぇ……」


 いや、違う。私は松隆くんとふーちゃんのお見合いをぶち壊しにしなきゃいけないんだ。

 ……もしかして、桐椰くんと月影くんに頼んで一緒にぶち壊したほうがいい?

「つかお前、今週は生徒会室来ないんだな」

「だって卒業式に向けて会議ばっかりなんでしょ? さすがに気まずいからさー」


 嘘ではない。本当は気まずい理由は鹿島くんにもあるけど、嘘ではない。返事をすると、松隆くんのお見合い話よりも鹿島くんへの疑念に頭を侵食され始める。

 貸してほしいんだろ──両手を広げて、抱きしめられたいなら来ればいい、そんな不遜な台詞と態度。私がいくら兄と会うのを嫌がっていたからといって、文字通り死ぬほどじゃあない。そう勘違いしたからといって、わざわざタクシーで駆け付けるほど、今の私にいてもらわないと困るというのか……。そんな打算まみれの行動にしては、あの腕は優しすぎる気がしたけど、ただの勘違いなのだろうか……。

 勘違いといえば……鹿島くんに対して──鹿島くんが妙に私に優しいとかそんなことじゃなくて──勘違いしていることがある気がする。何かが、妙に引っかかる。鹿島くんの行動が、何か──。


「なに百面相してんだ、お前」

「いたたたた、なんか久しぶりだね、桐椰くんにいじめられるの」


 我に返り、軽く引っ張られた頬を摩る。


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