第四幕、御三家の幕引
「なんだか久しぶりに飼い犬に噛まれた気持ち!」

「お前それ比喩じゃなくて文字通りの意味で言ってんだよな? あ?」

「いたいいたいいたい」


 めりっ、と両頬に桐椰くんの親指が食い込んだ。びょーん、と伸びる私の顔に対する桐椰くんの目は冷ややかだ。


「あのね、私も真面目に考えてたの!」

「何を。真面目に。俺が犬っぽいって真面目に考えてたのかよ」

「それは自意識過剰だよ? 桐椰くんは犬っぽいっていうか犬──痛い!」


 頬を離されたかと思うと頭を叩かれた。ふむ、桐椰くんとは相変わらず普通にやっていけるな。


「あのね、桐椰くん」

「なんだよ、妙に改まって。またくだらねぇこと言ったら次は分かってんだろうな」

「殴る準備しないで、怖いから! 桐椰くん中身は可愛いけど見た目はヤンキー顔負けって分かって!」

「前半余計だよな?」

「あ、だからね、真面目な相談!」


 殴る構えを崩さない桐椰くんを、どうどう、と両手を盾のように突き出して宥め、コホン、と咳ばらいをする。


「あのね。……一緒に、松隆くんのお見合いをぶち壊さない?」


 絶対にまた煽ってくるに決まってんな、と言っていた表情が、一瞬で間抜けになる。


「……はぁ?」
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